丘の上から

今日も全く眠れないから、こんなに眠れないなら眠るのはやめて起きていることにした。何も考えないでおこうと思っても頭の中はいつもゴタゴタしていて、無意識にたいていは無視し通すたくさんの声をそのままにしてぼんやり聴く。

青い矢車草がポツンポツンと咲き、ハルジョオンが風に揺れている丘には、短く切った髪を両手で撫でつけては何度も何度も空を見上げているelleがひとり座っている。今は夜だというのに頭の中の記憶の丘には夏の終わりの午後の風が吹いているのだ。

何か歌が聴こえるけどあれは本当聴きたくない歌。リリーマルレーン。死んだ母はトマトジュースが好きだった。生のトマトをジューサーで絞ったトマトジュース。ロートで瓶に詰めていく。黄色い洋からしを塗ったハムサンドを紙の箱から出したらまだ温かだった。

東西南北にカラフルなゲージを4つ。自由にしていいよ、とウサギたちに声をかける。大人ほど大きな白いウサギが背広を着込んで咳をする。差し出した右手の甲は毛むくじゃら。小さい机で頬杖をつく。

タクシーに乗って来るはずのリンダローリングをずっと待っている。丘の西側の砂浜を煤けたタクシーがやって来た。砂を巻き上げて止まったタクシーから緑色のラメのドレスを来た金髪のリンダローリングが降りて来た。

築百年のカフェの床は良い音がする。いらっしゃいませなんて言わないよ。サラダのレモンは厚切りにするよ。ねえ、fridayを誰か励ましたの?fridayが笑った。熱過ぎるものと冷た過ぎるものは苦手なんだ。ワタリガニのスープ?そう、匂いでわかったの。

森の湖で釣りを楽しむ。オールが軋んだ。JPに会いたいなら森の奥だよ。いつから常連になったの?楓の木、楓の木、挨拶して歩くのはマリの真似。泣いてもいいんだ、JPが言う。何処にいるの?こっちだ。こっちの楓の木だよ。途切れ途切れのリリーマルレーン。母が好きだった戦争の歌。

楓の木にうずくまる。

わたし青とピンクのタイルを持ってるのよ。女の子が笑う。駆け出したいような午後の風。日に焼けた赤い靴が片方。川を流れていった。