根岸吉太郎「雪に願うこと」

側対歩について読んでいる。馬の歩き方のひとつだが前足と後ろ足がそれぞれ対角線上に同時に着地する歩き方だそうだ。側対歩は上下の揺れが少なく乗っている人は疲れないで済むようだ。

正田陽一が対州馬についてエッセイを書いている。対州馬。ツシマ馬とも呼ぶ対馬の在来種だ。体高は大きいものでも130cm。小型の馬だ。足腰が強く30度の傾斜の峠道を人や荷物を乗せてへっちゃらに往き来する。そしてこの側対歩を教えられなくてもやるのだという。良い子だね。

鹿児島県にトカラ馬という在来種もいる。

これらは日本古来の馬の中でも比較的小さい種である。

今日は冷たい北風が刺す厳しい寒さの中を牧場へ行った。ホサナさんに会いに。

ホサナさんは10歳の雌ロバ。車で1時間ほどの牧場にいる。寒いから牧場はあまり人が来ていなかった。エサの人参のカプセル(人参はガチャで買うシステムだ)がなかなか開けられず手こずっているとわたしのモッズコートをぐいぐいと噛んで来た。ちょっと待ってよ。開いた。手のひらに人参スティックをのせて食べさせる。人参が無くなると顔を真っ直ぐに向けてふがふが何か言い始めた。主人が笑う。わかんないよ。もっと食べたいんだな、たぶん。

辺りに人が居なかったので動画を撮る。

ホサナさんは色は中国のロバに見える。チャコールグレー。顔が白っぽいのは加齢のためかもしれない。体付きはスペインのロバのようでもある。頭が大きくて可愛らしい感じだ。背中を撫でると後ろ足で砂を蹴る。人参がないならもう帰れ、と言っている。動画を嫌がり歩いて行ってしまった。いいぞ。わたしは引で撮り続ける。

名前を教えてくれたバイトの女の子に実は日本にロバが少ない理由を調べている、ロバに詳しい方にお会いしたいとお願いすると怯えたように後ずさりして男性スタッフを呼んで来てくれた。変な客来たと思われてるぞ。主人が笑う。わたしは真剣だ。

Mさんという男性スタッフはいろいろと教えてくれた。気難しいということはホサナについては無いですよ。仲良しの子?山羊、あの子かな。ええ、ホサナが年上ですからね。でも威張るという感じではないな。ほんとに仲良しですよ。

お勧めのロバ?すみません、他の牧場さんあまり行かないんですよ。

ホサナはかつて一般の人が飼っていたが何かの理由で飼えなくなり、牧場で買い取ったらしい。正確な年齢や出自を記録したものはないという。10歳は越えているということしかわからない。

それにしてもスタッフのお兄さんが爽やかだ。笑顔がすこぶるいい。ではでは。変な客のわたしも笑顔で手を振って別れた。

どっか、寄る?

主人が言う。

いや帰るよ。

カフェにもマックにも行く気分ではなかった。

疲れた。トヨタ WILL VIの風きり音を聴きながらわたしは幸せな眠気に包まれた。

根岸吉太郎雪に願うこと」は北海道のバンエイ競馬の映画である。大型の北の在来種が重労働を強いられる。主人公の伊勢谷友介よりも獣医役の椎名桔平が好きだ。「クイール」も椎名桔平が観たくて持っている。

特に椎名桔平がタイプではないのだ。動物と上手くコミニュケーションを取っている人間の光景が観たい。作り物で構わない。

日本にロバが少ない理由のひとつは日本には小型の馬の在来種が多く、ロバが必要なかったということがあげられるかもしれない。明治政府が軍事力にならないロバの輸入を禁じたという説もある。

近くに牧場があること、そこに美しいロバがいること。それで十分だ。

お兄さん爽やかだったな〜。

そこ?