The Blue Hearts「1000のバイオリン」

今日は診察日だった。まだ暗いうちに家を出て途中の駅でその先乗り換えをしないで済む鈍行に乗り換える。ずっとブルーハーツを聴き続ける。涙が止まらない。

世間一般のことは知らない。そしてDIDにはマニュアルが無い。マリもうさおも突然消えたがエルは違った。今日がお別れのその日だと繰り返し言うのだ。芝居のようなもったいぶった素振りであたしもう行くわ、と言ってはなかなか動かないのだ。

脳内の混沌にはとっくに飽きている。何もかもから逃げるように飛び乗った電車のシートに体を埋めた。交代人格の消滅は少なからず私自身の消滅でもあるのでこのまま自分の命が終わるかのような終末感はどんどん強まる。大垣を過ぎると一面の雪景色だった。白い。白はいいな。白くなりたいな。消えてしまいたい。エルと共に消えてしまいたい。わたしは念じる。そしてわたしはエルの涙を初めて見た。

主治医はわたしの混沌に慣れている。吐き出せ。感情を溢れさせ、熱い心を取り戻せ。もちろんそんなことは一切言わない。でも今日はそのために来た。苦しいのだ。助けて欲しいのだ。無理だ。もう誰にも何も出来はしない。エルは大垣を越えた辺りでもう輪郭も声も途切れ途切れとなった。

エルの置いて行ったものは重く苦しい記憶の塊だった。わたしは診察室で取り乱した。苦しいならいっそ脳を塗りつぶす薬をのむ方が楽になるかもしれないと主治医は珍しく弱気だった。わたしは躊躇した。そしてその瞬間、不思議なことにわたしの内面にはエルと共有した時代の悲しみや葛藤と向き合う覚悟が出来た。わたしは診察室を出た。

古ぼけた喫茶店の隅のボックス席。iphoneブルーハーツ「1000のバイオリン」を繰り返し聴く。

夜の金網をくぐり抜け

エルとわたしはいつも一緒だった。

危ない橋を渡って来たんだ

ふと見ると窓の外には雪がチラつきはじめた。

左様ならエル。深呼吸。まだわたしは生きているよ。

死にたい気持ちは今すぐ地下街に駆け下りて誰かにしがみついて大泣きしたいほど強かったけれどすっかり冷めて苦くなってしまった珈琲をひと呑みにしてわたしは店を後にした。

エルはかたちを変えわたしの中で生きている。そう信じよう。わたしは立ち止まり空を仰いだ。

何度でも夏の匂いを嗅ごう。

台無しにした昨日は帳消しだ。

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