山崎まさよし / One more time,One more chance

今朝は稲荷寿司を作る。揚げは昨日の夕方に煮てあるからあとは酢飯を詰めるだけなんだけどなんとなくいつも通り5時前に起きて箒と塵取りを持ってうろうろ。

昨日友人に熊について話す。友人というのは主人の友人なのだがわたしの妙ちきりんな熊理論をふんふんと辛抱強く聞いてくれた。

世界で最初のテディベアの発案者は男性なの。クマのプーさんの挿絵画家は実はちょいワル親父。「クマのプーさん」についてコメントを求められると「あの馬鹿なクマか」ってメディアに毒づいたんだって。

友人は見る限りは普通に見えたがどこか動揺を隠せない。なんだ。何をそわそわしてるんだ?中年男性と熊にはやはり関係性があるようだ。

‥‥あのさ、パディントンは?パディントンって知ってる?ペルー生まれ。‥‥パディントンもあれ、熊だよね。友人が言った。怪しいぞ。目が泳いでいる。

友人はどうやらパディントンが大好きらしい。だけど50だぞ。50のおっさんがパディントンパディントン連呼してかっこ悪くないか。

掃除を終え、部屋が片付き、深呼吸。わたしは稲荷寿司に取り掛かる。最近朝はJPOPをYouTubeで流している。今日の一曲目はスキマスイッチだったが途中スピッツスガシカオも流れる。

稲荷寿司はわたしにとっては特別な献立だ。わたしは5歳。山盛りの寿司揚げにひとつひとつ剃刀で切り込みを入れるのはわたしの仕事だった。長い柄の緑色の剃刀だった。長四角の寿司揚げを左手に持つ。慎重に剃刀の刃を当てた。側面の真ん中辺り、スーっと切る。テーブルに直置きの寿司揚げは100以上あった。

わたしはDIDだがリスカもアムカもしない。剃刀でこれでもかと揚げを切った。あの剃刀を汚すことになると考えたのかもしれない。わたしは稲荷寿司のこの仕事が大好きだったのだ。母は褒めることこそなかったが稲荷寿司を作る時は必ずわたしを呼んで剃刀を手渡した。仕事を任されるということに幼いながらも喜びを感じていた。

揚げを炊く醤油と砂糖の甘い香り。今では剃刀で切ることはしない。母は目分量で炊いていたがわたしは計量を怠らない。稲荷寿司の味はいつも同じ味でなければならないからだ。

いつか仲良しの友人が言った。100%の稲荷寿司を食べたことがあるか。友人は数年前に1度100%の稲荷寿司に遭遇したと言う。揚げの味付けと酢飯の酢加減、あれほどの稲荷寿司にはなかなか出会えないだろう。真面目顔の友人とわたし。あたしたちきっと毎日毎日ちょっと不味いもんばっか食べてるから、そんなことに感動しちゃうんだな。

あれこれ思い出す。わたしはひとつひとつ酢飯を詰める。母は手際よく詰めていた。早く食べたかったなあ。そして美味しかった。

あの時の稲荷寿司の味を再現出来ない。食べたいと思い大人になり何度も作るが、何度も作っても何かが違うのだ。もう少し酢飯は酢が薄かったし、味には深みがあった。揚げの歯応え自体別物のようにも思える。

クマのプーさんは蜂蜜でパディントンはマーマレード、八雲の木彫り熊はなんだろうか。雲八と磯子は何が好物だったんだろう。わたしは稲荷寿司なのか。

YouTubeから山崎まさよし 「One more time,One more chance」が流れる。なんだか泣きそうになる。まったくもってDIDは涙脆い。やだな。どんどん弱っちい人間になってゆくよ。

昨日三女の婿からウクレレを借りた。

One more time,One more chance

なんかこの曲いいな。

これ、練習してみようっと。