岩波書店「クマのプーさん全集」

転職した夫が朝5時半に弁当を持って出勤することになりわたしは4時にはYouTubeを聴きながら弁当を作っている。最近はライブ映像ばかり聴いている。こんなにもスキマスイッチを気に入っているのはピタゴラスイッチと名前が似ているからかもしれない。今朝も元気にシロクマ君は歌い上げる。

 5時丁度夫とふたりコーヒーメーカーのコーヒーを飲む。ホームベーカリーの焼きたてパンを彼は一切れ。わたしは一週間分焼いて冷凍してあるグリドルスコーンを一個、レンジで解凍して食べる。

 そののちゆっくり掃除をして洗濯を干しラジオ体操。解説の多胡さんのコメントが的確。先日Amazonで「たった3分で若さ復活! これが正しいラジオ体操 (NHKまる得マガジン)」という本を見つけた。多胡 肇さんが書いていた。多胡さんお願いだからBSとかで”ラジオ体操上級者テク”とか、そういう番組やらないでよ。うちBS契約していないからさ。

 先週末、知人のつてで北海道の木彫り熊資料館の学芸員Oさんと会った。29歳。思ってたよりうんと若い。徳川義親の話で盛り上がる。義親はとにかく謎の多い人である。徳川義親。北海道が大好きだった。年に1度必ず北海道へ行った。旅行先のスイスで木彫り熊のマスコットを手にしていたく感動した。単に熊が好きなのではない。可愛い熊が好きなのだ。

 Oさんが言う。

 どうして彼はマレーで虎狩りなんてしたんだろうね。義親は虎狩りの殿様と呼ばれることもあった。

 Oさんには義親には残酷なことはきっと出来なかったはずだと決め込んでいるところがあり、わたしもそれには速攻同意した。

 たぶん断れなかったんだよ。結局土壇場で長いものに巻かれちゃう人だったのかも。なんやかんや言って事なかれ主義。争いごと沢山見てきたんじゃない?わたしがそう言うとOさんはむつかしい顔をした。

 大石勇「伝統工芸の創生-北海道八雲町の「熊彫」と徳川義親」。わたしはまだこれを読んでいない。まだ読んで無いのかとOさんが驚く。読むつもりだったんだよ、でも図書館に無くてさ。わたしは笑ったがOさんは笑わない。ペザントアートについて、木彫りの手法について、そののちも話は弾む。

 わたしは少しためらいつつも中年男性が日常の暮らしの中で自身の万能感を埋め合わせるための心の反応として木彫りだったりぬいぐるみだったりの熊の人形を傍に置きたがる説をかいつまんで解説してみた。ところが途中、話をかいつまみ過ぎわたしはまるで目の前のOさんの心境を語っているかのようになってしまったのだった。分かり易い説明を、と言葉を選んだのだった。ふと見ればOさんの目が泳いでいる。違うよ。違うんだってば。

 学芸員の毎日はそれは忙しいらしい。

 わたしは都合でこのタイミングで席を外した。

 知人曰くOさんがわたしに伝えて欲しいとひとこと、もっとちゃんと本を読んでくださいよと言ったらしい。

 それで今日は「クマのプーさん全集」をじっくりと読み込んでいる。

 ミルンは幼い我が子に「銃は持っていますよね」と尋ねている。シェパードのイラストではクリストファー・ロビンの持っていた銃の銃弾は糸の付いたコルクであるが、ミルンはそこら中に迫り来る戦争の空気の中で命の脆さと人間の残酷さを「銃は持っていますよね」という散文に込めたのかもしれない。原作ではクリストファー・ロビンはプーを助けようと銃を2発撃っている。

 そういえばOさんが言っていた。徳川家の人間は戦争に行きませんでしたよね。行かなくていいんですね。なんか不公平ですね。

 Oさんが読むようにと言った本を先ほどAmazonで注文した。わたしは今はもうライターになる気は全く無いが数ヶ月後再びOさんと会うことになっていて、まだ読んで無いのかと言われたく無いからさ。

 ちなみにOさんの専門は貝塚だ。貝塚と熊は無関係ですよねとわたしは容赦無い。

 Oさんはそれはそれはむつかしい顔をしていた。

 なんか悪いことしたかな。ちょっと反省している。

 ほんとにほんと?

 そう言ってパトリックまでもがわたしを睨むのだ。