診察日(2015年9月)

近所のリサイクルショップにホームベーカリーを買いに行ったところ木彫り熊を発見。掌サイズ、小ぶりの鮭をくわえていた。280円。安いのか高いのかわからない。たぶんきっと100円でも買わない人は買わないだろうから。

帰宅後体高等を計測。H8L13W7。そして写真集にある幾つかの木彫り熊と顔や躰付きを照らし合わせる。四肢の配置や首のラインは間違いなく旭川の熊だ。しかし木の種類と造られた年代はさっぱりわからない。左前足に金釘調の刻銘があるけれどなんと書いてあるかは判らなかった。

録画しておいたサラメシを見ながら弁当を食べ午後は病院へ。今日は主人が工場を休んでくれた。高速であっという間に着いた。

調子どう?旅行は何が良かった?うーん、ひとりの時間。アローンをエンジョイしたよと脳内で笑う声。

フェリーの雑魚寝やドミトリーの二段ベッドがわたしには丁度よかった。ビジネスホテルの暗闇に幻覚たちが浮遊するあの恐怖。DIDあるある。わたしはもう一人ではホテルに泊まれないのだ。まあこんなこと誰にもわかって貰えないだろうけど。

そりゃあもちろんそれらはわたしの分身だ。旅先という特殊な環境で属性と日常から解かれた人格たちはパワーアップする。

むしろそのために旅に出る。一人旅には手応えがある。上手く説明出来ない。狂っている。普通じゃない。

小説の話。わたしは主治医にインタビュー。現役の精神科医でなければわからないことなどをいろいろ尋ねる。例えば任意入院で病院を脱走したとしても捜索願いは出すものなのか。連れ戻された患者は医療保護入院となってしまうのか。医師免許を剥奪される要件に精神病は該当するか。

‥‥あのさ、彼はなぜ精神科医になったんだろうね。

主治医はわたしのはてなに真面目に丁寧に答えてくれた。

ここ数日なんだかわからないけど身体中が痛い。精神科って湿布貰えるのかな?

ひょっとして小説を書いてるとのめり込んじゃう?夜とかに書いてる?

あー、身体が痛いのはそのせいなのかも。でもそんな弱っちいことは言いたくはない。小説はまだまだ続く。街が社会が精神病患者を圧迫する。これまでのわたしの景色は実はとてもネガティブだった。突き抜けたいのだ。自分が何を目指しているのか。そこは譲れない。感覚量を増大させてわたしが生身の人間になるために。

もう年だからなあ。夜型はパフォーマンスが悪い。

眠れない?薬だすね。

‥‥あのさ、もう誰も死なないから。あ、小説の話ね。

次回診の予約をしてわたしは部屋を出た。

今月の診察がこうして終わった。