連載小説 小熊リーグ⑯

興奮していた。震えが止まらない。その時突然後頭部に刺さるような頭痛を感じてあっと言って目を閉じた。小さい火花が散るような、ピンと張られた薄い何かが裂けるような痛みだった。ザワザワいう音が近づいたり遠のいたりした。頭痛はまた来た。そしてまた。強く弱く気まぐれに飛んでくる矢のような何かが脳に刺さる。もうやめてくれ。両手で僕は頭を押さえた。

「お薬は?持ってる?」彼女が言った。「苦しそう、‥‥ねぇコウちゃん、やっぱり119番しようか」

「先生、深呼吸出来るか」マスターが言った。

そう言われて僕は頭痛と雑音を無視しようとしたが上手くいかなかった。呻き声をあげながらどうにか救急車は嫌だと伝えたがまたすぐに強い頭痛が来て耳がピッタリと閉じたようになり一切の音が遮断された。僕はカウンターに突っ伏した。

両脇をふたりに抱きかかえられて店の中を少し歩いた。そこは板の間のような場所で僕は雪崩れ込んで横になった。

喉に何か丸いものが詰まっていて呼吸が苦しい。首から上は朦朧としていた。周りを見回す。驚いたことに視界は一面ぐにゃぐにゃした透明のゼリー状のもので占められていた。僕の脳はどうしてしまったのか。時々聴こえなかった耳が治る。釜の蓋がズレるような酷い音がした。意識が途切れた。そうして体の力が抜けていった。

どれだけ時間が経ったのかはわからない。名前を呼ばれて顔を上げると目の前に父の顔があった。

幻覚か。

「帰るぞ」父の声だ。本物の僕の父親だった。後でわかったことだがマスターが僕の財布の中に診察券を見つけて病院に電話を掛けてくれ、連絡を受けた父が店にやって来たのだ。

父の声が懐かしくて僕は再び泣き始めた。僕は嗚咽を堪えられない。わかった、わかったと父は何度も僕の背中を撫でていた。