平凡社 川島良彰「コーヒーハンター」

昨日は朝から河を渡り単独ポタ。14km。薄いTシャツを半袖長袖組み合わせて三枚着ていたが坂に差し掛かると暑かった。坂道をひとりよいしょよいしょと自転車を漕いでいるとごちゃごちゃとして騒がしい脳内がひとつにまとまってゆくようで心地よかった。

あまり深く考えたことがなかったのかもしれない。ハワイのコナコーヒーはコナという名のコーヒーの木から作られる珈琲なのだと勝手に思っていた。数年前友人宅で初めてコナコーヒーを飲んだ時色が薄いように思えた。きっと友人が豆をケチったのだろうと思った。コナコーヒーは高価であるという友人のうんちくを聞かされていたからだ。

コナというのは地名だったのか。知らなかったの、こんなことは常識だよと笑われるかも知れない。けれどこうしたひとつひとつの珈琲の話が楽しい。知らなかったことを初めて知るという喜びである。

ハワイには島が幾つかあり、コナという名前の街はハワイ島の西側にある。カイルアコナには高い山があり、昔々その高い山から吹き下ろす風の音を地元の子どもたちは怖がったとある。コナエコーという風の音。いったいどんな音なのだろう。

コナコーヒーの品種は川島が初めてコナへ渡った時は「品種はジャマイカと同じティピカ」とある。では今は?今はどうなったのかな。アラビカ種は次々と交配をして新しい品種を作り出せる。同じ品種なのに土地によって木の個性に違いが出るのは何故なのか。コナコーヒーは爽やかな好青年。洗い晒しのTシャツと揺れるハンモック。

今朝は浅本の本のレシピでパンケーキを焼いた。リコッタチーズはないからケフィアをしっかり水切りしたやつで代用する。結構入れる。なんとかしてリコッタチーズを作りたい。搾りたてのミルクから出たホエーを凝固させるとな。

ふわふわパンケーキは好評だった。美味しい美味しいと家族はぱくついていた。

一昨日Amazonで買った「シンプリーフレンチ」が届いた。嬉しいな。リビングへも持ち歩いて移動する。

フレンチのコースを生まれて初めて食べたのは19の時だ。父と2人で美味しいと言われているフランス料理店へ行った。クロスの掛けられたテーブル。ナイフとフォーク。パン屑を払う道具。ひとつひとつ写真を撮るようにして緊張しながら凝視した。

忘れられない味。パイに包まれた白身魚がクリームソースに埋まっていた一皿。塩辛くて脂っぽい。わたしは半分も食べられなかった。

牛フィレのステーキには同体積のフォアグラが載せられていて甘いキャラメル味のソースにはパラパラと黒トリュフ。これまでに食べたことのない不思議な味だった。

一般的には美味しいというのかもしれないその味を美味しいと思えなかったのは緊張していたからかもしれない。でも塩辛い、脂っぽい。そんな言葉しか浮かばない。わたしは味覚が貧しいのだ。そんな悲しみしか浮かばない。

フランス料理に憧れていたよ。父もわたしも。そのようなフレンチとの出会いをとても感謝している。ヨーロッパへの興味はその日から始まり今も続いている。

フレンチレストランがフランス料理の現場だという幻想から解かれたことはその後の探究に役立った。フランス旅行はまだ出来ないけれど。

横柄でわがままを当たり前としていたフレンチのシェフたちは母と対立しては辞めて行った。夜遅くまで母とふたりクロスにアイロン掛けをした。なんか違う。疲れた。母はお店を売りに出した。

わたしが初めてマッシュポテトなるものを食べたのは小学3年の時だ。それにはミートローフなるものが並んでいた。それは貧しい暮らしの台所で母が手作りした一皿だった。

父が途中からケチャップをかけると母は悲しそうな顔をした。

わたしはケチャップを掛けないで食べた。

美味しい。わたしがそう言うと母は無表情にわたしを見た。その時の味をどうしても思い出せないのだ。わたしは母を喜ばせたかったからきっとその時は美味しいとか不味いとかではなかったのだな。

ふーん。わたしっていい子だったんだなあ。