連載小説 小熊リーグ㉚

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運ばれてきたパスタはクリームソースのショートパスタだった。

「これニョッキ?」泣きはらした顔で彼女が新海氏に尋ねると新海氏は頷いた。彼女はニョッキをフォークでひとつパクッと食べた。僕は安心した。そしてあることを思いついた。ボディバッグをがさごそとやってiphoneを取り出して言った。

「あの、ええと、もしよかったら僕の電話番号を教えておくよ」

「電話掛けていいの?」彼女がびっくりしたような声をあげた。

「なんかあれかな、尾行したかった?隠れてあと付けるっていうのが本当は好き?」新海氏がそんな冗談を言うと彼女は食べるのをやめて僕の顔を一瞬見た。ずっと泣いていたせいで低い鼻が赤かった。白い頬にはほつれ髪がくるんと触っている。

「‥‥うん、ちょっと楽しかったかもしれない」彼女が難しい顔付きに変わった。

「やめてくれよ」僕が怯えた声で言うと「冗談ですよ〜」と彼女はふたたびニョッキをパクッと食べた。

「いやわかる。そういうの少しわかるかも」新海氏が言った。「じゃ新海さん変態だ」彼女が言う。

「いや変態っていうほどではないよ。なんていうか密かな世界っていうかな、うん」

「新海さんて変わり者ですね」彼女が僕を見て微笑んだ。僕はその夜頭がぼうっとなるほどに彼女のことを可愛いと思っている感情を抑えられなかった。僕と彼女はお互いのLINEをふるふるして交換した。

その夜のことだ。彼女からのLINEが止まらない。それは見捨てられ不安に裏打ちされた強い言葉の数々だった。