谷克二「マイスターの国」

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昨日久しぶり次女がやって来た。いろいろ話す。次女は会社員。毎日忙しいらしい。もう15連勤だよ、とソファで眠りこけている。わたしの娘は3人だが次女は男勝りの体育会系。よく食べよく眠る。

谷克二という作家はヒグマの小説も書いているようだ。羆と書いてヒグマ。この本は谷のドイツ滞在時代のエッセイである。

17歳でヒットラー・ユーゲント入りし敗戦。その後アルコール依存症から立ち直れないエミールというドイツ人男性が谷に語る。「ヒットラーに心酔したのは初恋みたいなものだったよ」。

「東からはソビエト軍、西と南からはアメリカ軍にせめられて、藁をもみしだかれるように国土を蹂躙された」谷はドイツという国の苦悩を書く。

ハンブルク爆撃で自分以外の家族を失ったペーターというドイツ人男性は谷の友人となる。ペーターは当時3歳で自身も左眼と左足を失った。

「生き残ったことを幸運に思った。教育も受けた。だけど家族のぬくもりという1番大切なものが自分には無い。結婚をして家族を持ち出来る限りの愛情を注いでけっして手放さない」

谷は自身の若き日のドイツ放浪時代を至極大切に振り返る。粗暴で猥雑で荒々しい隣人たちとの日々をよく思い出すのだと、日本での平穏な日常の暮らしの折々でそれらは強い光芒を放って鮮明に蘇るのだと書いている。

谷のその他の本をまだ読んでいない。がっかりか、それともユリイカか。ユリイカとは古代ギリシャ語で「見つけた」という意味の言葉だがわたしは「嘘や〜マジヤバい〜」的な感じの嬉しい発見で「ユリイカ」と頷くことにしている。

わたしは谷の独特なこうした感覚に共感するのだ。精神病となり無職の15年が過ぎた。療養である。こうしてゆったりと日常過ごしているが厳しく辛かった景色はまだまだ発掘を待っているようだ。積極的に思い出すことで最近は安心するのだ。残酷でお手上げな光景は輝きを放つ。わたしは幸せという景色にけっして慣れることはないのかもしれないなどと考える。

「カフェ・バッハ」のケーキ本にパンデピスを見つけた。パンデピスが好きだ。何種類ものスパイス抽出液を生地に混ぜる。卵もバターも使わない重厚で任侠な雰囲気を持つフランスの郷土菓子。

カフェ・バッハのレシピは面白い。スパイス抽出液に珈琲豆やパルプ・ド・コーヒー(珈琲豆の果肉を干したもの)を加えるなどとあるではないか。ユリイカだ。

次女がぼんやりして精彩を欠くわたしに言った。ママらしく無い。そうかなとわたし。

わたしはかつて会社を辞めたいと悩む次女に「貴女のいろいろな「辞めた」の報告を今まで何度も聞いてきた。今日まだ辞めてないんならまだまだやれるでしょうに」と言ってからからと笑ったらしい。

そんなことは全く覚えていないがそれはまあ黙っておいた。

夕べは眠剤をひとつだけ増やして眠った。

来るなら来いのファイティングポーズ。

昔の自分を待ち構えて闘うなんて精神病は面倒臭いな。