診察日(2016年2月)

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苦しいんです、江戸時代のことが頭から離れないの。わたしはデスクに突っ伏した。診察始まりは先月に引き続き絶好調思春期キャラであった。

次の瞬間わたしは身体を起こした。今熊を彫ってんですよ、いやとうとう始まりましたよ。満面ドヤ顔。アーチストさんが登場だ。〈スーパーなぎら〉は動じない。シャープペンをクルクル回しながらカルテを覗き込んだり眼光鋭くわたしを凝視したりしている。

‥‥曲がぽわーと浮かんでくるの、だから書かなきゃっ。夢見がちな表情で視線を彷徨わせる。え?のだめ?

診察室は無法地帯のごとくなり各々は勝手気まま〈スーパーなぎら〉めがけて一斉射撃である。

彼女はとても疲れています。引越しをして1人の時間が長くなり何かをし始めると自己抑制が効かない。強い集中がとめどなく続きます。新たな症状としては高所恐怖が酷いですね。物干し竿が風で落下するからと半泣きになりご主人さんが結束バンドで竿を固定してようやく落ち着いた。J・ピーターズの言葉は脳内を意気消沈させた。人に会うのを意味もなく怖がっていますよ、J・ピーターズは続けた。

そのくせ会えば会ったらで元気な振りですよ、今調子悪いんだと週末の来客を断ればいいのにさ、パトリックがJ・ピーターズに同意を求める。ジョージが頷く。何か安定剤を処方しましょうか。なぎらはカルテをパラパラとやった。カルテは全て英語(たぶん)。筆記体なんである。次回予約を取って診察は終了だ。

‥‥あのね、今日ね、名古屋出るでしょ、久しぶり街をふらふらしたら?って主人が言ってくれたんだけどふらふらって何?ふらふらってどうやるの?って。どこへ行っても人がいっぱい、あたしふらふらの仕方忘れちゃったんです、ふらふらなんてもうわかんないんです‥‥、パトリックもジョージも哀しい目をした。その時だった。

ふらふらのやり方か?ふらふらって、そりゃそんなもんはこうやってふらふら〜ふらふら〜ってやりゃあいいんだ。ふらふら〜ってな!

ん?

なぎらは突然頭と両腕をめっちゃふらふらと揺すり始めた。

先生大丈夫ですか?

どうしよう先生がおかしくなっちゃった。

きっとあたしたちが沢山いろんなこと言い過ぎたからだよ。

先生御免なさい。わたしたちは大丈夫です。

‥‥ユングも病んでいました。彼もまたアーチストだったのです。ジョージ・ピーターズが呟く。

流石〈スーパーなぎら〉今日もいいものを見せてもらったぜ。パトリックに笑顔が戻った。

ふらふらなぎらを残しわたしたちは診察室を出た。