姥ざかり花の旅笠―小田宅子の「東路日記」

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知り合いの陶芸家さんから失敗作の湯呑みを沢山頂いた。ポッテリとして可愛い。高台がキリッとしていてかっこいい。田辺聖子をぼちぼち読む。読み切ってしまうのが勿体無いので途中何度も本を閉じる。昨日来客。声楽家の彼女がやって来た。彼女は声楽教師もやっている。週末のレッスン終了のその足で来たせいか営業モード、ハイテンションだ。よく食べるしよく話す。パワフルやなあ。

自分自身今も定期的に遠方まで出向き声楽のレッスンを受けているという。肋骨の一本までも正しく震わせるという発声技術、声は口から出てのち曲線を描くのだという。

わたしは昼間なんとなく浮かんだ替え歌を披露した。ミスチルの「ラララ」の歌詞をアレンジ。わたしの「ラララ」を作ってみた。なんならメロディも変わっている。

へー、2番まであるのか。彼女が豪快に笑う。

あのね、最初に出て来るフレーズはたいてい決め決めだからそれは2番のサビにとっておくんだよ、で、それを歌いたいからまあ1番を作らなきゃなんないわけよ。わたしは説明する。

ミスチルってそんなにいいか?女々しいじゃないか、弱音を吐いてさ。あたしは「ミスチル好き」な男が苦手。言い訳がましいくってさ、焼きたてだから切りにくいな、彼女はそう言って持参したお気に入りのパン屋のバケットをナイフで切ってチーズを載せ、わたしに手渡した。

架空の世界だからさ。わたしは言った。

架空の?

‥‥そうだよ。武士道なんて討ち死にか切腹かの2択だよ。ミスチルの桜井は武士道未満のリアルを忠実に歌ってるんだと思うのさ。だから女々しくなんかないんだよ、むしろ武士道をリアルに捉えてるからこその男が「俺もっとやれんだよ」って必死になってるのが伝わるんだよね。わたしは言いたいことを言ってしまうとバケットを齧った。バケットは麦の香り高くたいそう美味だった。

そんなの認めない、あたしは蹴り飛ばしてやる、彼女は片足で宙をキックする。

桜井和寿がライブで100点を出す話、20代にして金も名声も手に入れた人生の哀しみ(空想)の話、わたしは止まらない。彼女は今度はくるみパンを手渡してくれる。

音楽とは無形のアートであるという話、輪郭も無く、かつまたステージで出来上がりと同時に消えゆく音たちの儚さ、それゆえにひとつとして同じものを作れないという創作の愉しさ、彼女も止まらない。

これ何?彼女がニトスキでカリカリになっている肉団子を突つく。

自家製サルシッチャ、ようやく完成したよ〜、トン腸はないからビニール袋でさ、冷たい水で挽肉を捏ねる。

彼女は黙って食べている。どうだよ、ねえ、美味しいとか言ってよ。

しょっぱい。彼女が笑った。しょっぱいのが美味しいの、わたしも笑った。

まあ飲んで飲んで、主人がキンキンに冷やしたイエーガーマイスターを彼女のぐい飲みに注ぐ。これ何?ドイツの養命酒。へー!

ハイテンションの夜が更けていった。