fridayusaoのブログ〜丘の上から

統合失調症でDID、読書と音楽鑑賞の日々の徒然。

中山道〜妻籠宿の巻

https://www.instagram.com/p/BHHjePFDAC4/

 

妻籠宿

 

信濃国筑摩郡(長野県木曽郡南木曽町)

 

標高約420m

 

本陣1 脇本陣1 旅篭屋37

 

今日はお泊りですか、と本陣の入り口で尋ねられた。わたしは入館料の300円を払おうとごそごそとやっていた。

 

妻籠宿脇本陣は明治10年の建造で重要文化財に指定されている。脇本陣へはもう行かれましたか、女性が言う。いえまだです、本陣を見てから行きますとわたしが言うと女性は今すでに時刻は夕方4時を過ぎている、脇本陣は4時45分に閉館だと言った。

 

わたしはそれならば今日は脇本陣はあきらめますと返す。今日はお泊りですかと訊かれたのはこの時だった。

 

正午過ぎ、ふらりと家を出てきた。結構な時間を鈍行に揺られJR南木曽駅に着いた。窓口でバス停の場所を尋ねると女性がバス停を指差した。バスはすぐに来た。妻籠宿駐車場まで10分もかからなかった。

 

日帰りです、とわたしが300円を出すと女性はこの本陣は昭和に建てられた新しい建物であるといい、是非とも脇本陣を見てからお帰りくださいねと繰り返した。

 

わたしは女性に本陣は何故昭和の建物なのかを尋ねる。彼女の説明によれば本陣はご一新で倒産、建物は空き家となり、地元営林署などが使っていたが妻籠宿観光キャンペーン”町並み保存”の一環として本陣は再建されたそうである。

 

本陣と脇本陣は別の家族ですか?わたしは尋ねる。本陣は島崎家、脇本陣は林家です、女性は言った。江戸が始まり五街道が整備され伝馬制が制定。中山道69次とは69の宿場町のことで、参覲交代の殿様以外にも大名関連の飛脚ら、公家たちが本陣に宿泊するのだが本陣が使用中の日はその予備として脇本陣が用意されている。

 

本陣、脇本陣ともにいわば一般人が自宅を宿として開放するという手順である。では江戸時代以前には、五街道に沢山ある宿場町の本陣の家は何を生業としていたのだろうか。本陣と指定されてのちは幕府の補助金で暮らしていたようであるから本陣、脇本陣の家長たちはいわばその時から地方公務員になったということになる。

 

妻籠宿脇本陣は副業を許されて江戸中期に脇本陣林家はお酒造りをはじめた。中山道東海道よりマイナーだ。街道の道幅はここを大名行列がと見まごうほどの狭さである。本陣に大名行列が宿泊する日にはさぞかし街道がごった返したことだろう。

 

林家は酒蔵を経営しつつ脇本陣を勤めた。明治になり、中央本線蒸気機関車が走るようになると山奥の中山道を行く旅人は激減。武士はもういないのである。本陣島崎家は衰退した。

 

本陣の門構えを進む。アプローチを歩く。玄関に見えた場所は敷台である。雨降りでもお籠をよっこいしょと敷台スペースに置けば殿様は着物やちょんまげを濡らさずに建物に入ることが出来る。

 

きっと殿様は正面玄関を入り、家来たちは左手の土間へと通じる木戸をくぐる。土間には広々とした荷物置き場、奥には大きなカマドが見える。参覲交代では旅の食糧も持参した。もちろん毒味担当の武士たちも連れ立って歩いたことだろう。

 

木造建築、太い大黒柱。黒々と光っているのは一年中囲炉裏を炊いて煙で燻しているからだという。湿気が多い土地の木造家屋はそうしていないと木が腐食することがあるらしい。

 

本陣は木曽五木で造られてはいなかった。木曽五木はヒノキ、コウヤマキなどの高級木材で木曽の村々では税金的なものは納めずに木曽五木を納める。そうして幕府からお米を貰える時もあるのだ。

 

だから中山道木曽路の本陣は木曽五木で建てられているのだろうと勝手に思い込んでいた。ところがそうではない。じゃあなんの木かな。黒光りする柱をわたしは撫でてみた。

 

殿様の寝る上段の間は一軒幅の廊下が三方をぐるりと取り囲んでいた。殿様が眠っているあいだここで見張りをする武士たちがいた。きっと代々仕事を受け継いだことだろう。その見張りの仕事にはちゃんと呼び名があったんだろうな。そんな妙なことを考えた。

 

時間はあっという間に経った。本陣を出ようとすると先ほどのお姉さんが声を掛けてくれた。5時半のバスで南木曽へ戻ります、またいつかゆっくりと脇本陣を見に来ますとわたしが言うと是非、とお姉さんは笑った。

 

まだ少し時間があったのでわたしはお姉さんに江戸時代の妻籠宿には何頭くらいの馬がいたのかな、何馬がいたのかなと聞いてみた。

 

さあわかりません、お姉さんは笑った。

 

今日は本陣だけでかえります、まずは本陣ですよね‥‥わたしが笑いながらそう言うとそうですね、脇本陣は予備の宿でしたから‥‥とお姉さんも笑った。どこかで醤油を炊いているいい匂いがした。

 

しまった、お土産にお焼き買うんだった。お姉さんと手を振って別れて、わたしは小走りしてお焼き屋さんを目指した。