「男はつらいよ」第9話 〜柴又慕情

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知らぬ間に夏が来ていた。昨日午後の炎天下を歩くと15分で立ちくらみと吐き気に襲われた。エアコンの効いたコンビニのイートインに飛び込み冷たい飲み物を摂るがなかなか吐き気は改善しない。熱中症を甘く見てはならない。

必ずエアコンを点けてくださいとクリニックのドクターは言ったがエアコンの故障はまだ治らない。夕刻が来るまでスーパーのベンチ等を巡り歩いた。ホームレスみたいだと娘たちにお説教されそうだな。

山際に建つ集合住宅に夕刻が訪れた。プリンペランを飲む。プリンペランは吐き気止めの錠剤だ。生バジルをたっぷりのせたズッキーニのグリーンカレーを少し食べる。こんな日はそうめんとかでしょうと言われそうだがどうしても辛いものが食べたいのだった。

今日から三女の住む神戸の家へ行く。エアコンもある。クリニックのドクターもそれは何よりだと神戸旅行を勧めてくれた。家からJRの駅まで車で運んでもらえないかと友人に電話で頼んだ。どうやら熱中症らしいと言うとえらく心配された。

涼しい夕方の風を感じながら今日も「男はつらいよ」の脚本を読む。映像を観たり音楽を聴いたりは文字を読むよりももっとし辛い。わたしはしんじつ変わった脳みそをしているんだなあ。

今日は第9話柴又慕情。マドンナに吉永小百合を迎えてのヒット作。痩せた不動産屋役の俳優がいい(結構観てるので映像も出てくる感じです)。手数料6000円をしつこく要求する演技が素晴らしい。

寅次郎を兄貴と慕う弟分の人が昔ちょっと好きだった。なんという名前の俳優かは知らないが幸せ薄い顔つきをしたペーペー感が滲み出ていて見ているだけで哀しくなる。わたし女だからこういうの母性本能をくすぐられるというのかなあなどと思ったり。

吉永小百合と出会う宿屋の仲居の演技が上手い。こんな演技ちょっとできないと素人ながら感心する。女を捨ててるのか、女を鋭く演じているのか、おそらくはそのどちらかである。

この映画の見所は今回はサクラの夫役の前田吟である。父親を見捨てるようで恋人との結婚に踏み切れない吉永小百合の背中を押す数々の名言を畳み掛けるように円満な笑顔で強い論理と説得力で放つ。

極め付けは「貴女のお父さんは幸せな人だ」の台詞である。なんで幸せか。父親はこの先孤独を強いられようとしているのだ。劇中では吉永小百合だがとかく娘というものは父親を怖れて生きているのだなあなどと考えたり考えなかったり。

わたしがこの作品を好きなのはわたしの父親はフーテンであり、寅次郎であるからだ。吉永小百合は思っているに違いないよ、ああわたしの父親が寅さんみたいだったら‥‥。

ふん、勝ってるし。わたし吉永小百合に勝ってるし。

馬鹿だ。救いようのない馬鹿だあたしは。

個人的には寅次郎が上品に成ろうとする場面がすごく笑える。吉永小百合の前では痔の話や屁の話をやめるようにと再三おいちゃんに訴え出る寅次郎が健気である。ではひとつ恋愛問題などの話題はどうでしょうと前田吟はこの時も振るっている。

夜銭湯から帰るとねえもし良かったら神戸旅行へこのヌメ革のアタッシュケースを持っていけばと夫が日頃大事に仕舞い込んでいる鞄を出してきた。

ちょっと重いが少ない荷物だ、衣類等を詰めると丁度良かった。

持ってみるとこれがまるで女版車寅次郎である。

ねぇお兄ちゃん、何処いくの。わたしを止めてくれるサクラはいないからそこが違う。それにわたしには旅先で素敵な出会いもないわけで。

ただし炎天下は15分までとする。ふらりふらりと西へ進もう。