新潮文庫 J・ウェブスター「続あしながおじさん」松本恵子訳

f:id:fridayusao:20161005035831j:plain

友人に「あしながおじさん」を読んだことがあるかと尋ねるとあると言った。では「続あしながおじさん」は読んだことがあるかと尋ねるとないと言った。友人は「キャンディ・キャンディ」は読んだかと言った。わたしは読んでないと答えた。どうやら「キャンディ・キャンディ」もまた孤児院の話であるらしい。

ということで「続あしながおじさん」を読む。百万回読んでいるのでいつも読みたいところだけを読む。1月11日、主人公サリー・マクブライドが院長を勤めるジュングリアホームが火事。オーナー夫人のシュディ・アボットへとりあえずの二通の海外電報を送ったのみであったことを詫びる言葉からはじまる手紙。

孤児院の東に隣接しているノウルトップ牧場の使用人たちが車の荷台に乗り込んで駆けつける。当時はまだ自動車が普及しておらず5キロ離れた場所にある消防署には馬しかいない。みぞれと強風の夜を車を飛ばして来た牧場の男たちは靴を脱いで屋根に登り濡れた毛布で火の粉を叩いた。

その晩ノウルトップ牧場では農場主の誕生日パーティがあり、何組かのオーナーの友人の老夫婦が宿泊していた。ノウルトップ牧場の農場主は孤児も孤児院も嫌いでかつて牧場内の広い丘で子どもたちが凧揚げをしたがっているとサリー・マクブライドがお願いに行ったときには牧場は神聖なものだから害虫のような子どもらを入れるわけにはいかないと言った。

サリー・マクブライドは無知だ。牧場は神聖なんである。牧場主が多くの家畜を害虫から守るのは当たり前のことだ。子どもが害虫なのではなく、子どもには雑菌が多く付着しているということなのだ。

何も知らないサリー・マクブライドは凧揚げの一件では”ノウルトップの頑固オヤジが”と散々な悪口を手紙に書いたのだが作者であるウェブスターはこの火事の夜に牧場主と誕生日パーティの後就寝していたはずの年寄り友達たちを叩き起こして火消しに動員させる。

年寄りたちは火消しについては役立たずだったのだろうか、おばあさんたちは孤児院の1番小さな赤ん坊たちを火事の現場からノウルトップ牧場の宿泊施設へ抱いて連れて帰った。サリー・マクブライドはこの日にノウルトップ牧場の宿泊施設はこうしてふさがってしまったと手紙に書いている。

赤ん坊を寝台に寝かしつけたノウルトップ牧場の年寄りたちは今度は牧場内に新築されたばかりの大きな納屋の床に干し草を敷き詰めて少し大きい子どもたちをそこに寝かせることを提案した。サリー・マクブライドは「年寄りたちは子どもたちを子牛みたいに何列にも並べて寝かせてくださいました」と乱暴に書き綴っている。

子どもたちは温かいミルクも飲んだ。このミルクは売ると赤字になるという種類のものでこの後も子どもたちにはタダで提供される。

その後ブレッドランドなる富裕層が火事場に現れる。彼はかつて養女を求める妻とともに孤児院を訪れたが気に入った幼児には年の近い2人の兄がいた。ブレッドランドは男の子が嫌いであるという理由でこの時は孤児院を去るが、著者は火事場のどさくさを利用してブレッドランドに2人の兄もろとも女の子を連れてゆく許可を出した。

ブレッドランドは火事の知らせを聞き、あの子はどうなったのか、と女の子の安否を確認に来ただけだったのだが轟轟と燃え盛る建物を前に小さな妹の両脇を勇敢な騎士団のようにして離れない男の子たちの視線に何かを感じ取ったのだろうか。

著者はまた衛生知識の不足した縁故採用の女性職員が通路の窓を閉め切っていたおかげで風が吹き込まず結果的に延焼を防ぐことになったとした。

赴任当時サリーは孤児院のカビ臭い匂いがいつまでも払拭されないのはこの頭の悪い女性職員が通路の窓を閉めてしまうからだと、さらにこの職員は院長に徹底的に反抗して言うことを聞かないのだと手紙で悪口を書きまくっていたのだが。

人生にはホーン岬があって、とサリーとシュデイは何度もやりとりをしたものだ。ホーン岬とはアフリカの南端の岬のことらしいが、果たして難しい懸案事項を解決したのか、超えたのか、まだ超えないのかというたとえである。

サリーはホーン岬を超えたのか超えないのか。彼女は火事の顛末を知らせる手紙でこの頭の悪い縁故採用職員が頭の悪いままで本当によかったわと品の悪い気焔を挙げている。著者は院長サリー・マクブライドを徹底的に無知で愚かな、だがしかし愛すべき女性として描いた。

「続あしながおじさん」は児童書だ。差別に満ちた記述も多く、主人公は仕事熱心だか若干の不勉強であり、かつまたいつ何時もロマンスに夢中だ。

なんでかな。読みたくなるのだ。世の中そんなもんだろう。立派な人にはやっぱりわたしは今もあんまり興味がないのだ。

ノウルトップ牧場の年寄りたちは頑固でどうしょうもないけれど悪い人じゃない。もちろんこれは作り話なんだけれどもね。