twins(双子)②

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その双子の兄と弟は隣町に住んでいたから、わたしたちは同い年だったけれど小学校も中学校も一緒になったことはなく、こうして店のフロアー係と客という風にして出会うまでわたしと彼らとには面識がなかった。

それからのちのある夜のことだった。1人でやってきた彼が今晩は、今週末、僕とデートをしませんかと言った。わたしは少し悩んでから、あの夜に一緒にいた女性はあなたの恋人ではないのかと尋ねた。

あの夜は会社のダンスパーティーがあり、あれはその帰りで、彼女は同僚だと言った。そしてダンスパーティーと言ってもフォークダンスなんだよとはにかんで笑った。もしやと思い尋ねてみると、今週末にもそのダンスパーティーがあり、わたしはそれに誘われたのだった。

わたしはすぐには返答せずにしばらくフロアーを歩き回り、せねばならない仕事をひとつひとつ済ませた。帰ってゆく客の会計をするべく、レジカウンターに入ったり、そのあとは帰っていった客のテーブルのグラスやお絞りを下げ、テーブルを拭いた。

もう閉店が近い。わたしは各テーブルの砂糖壺と粉チーズや塩胡椒などの調味料の籠をカウンターに集める。

粉チーズの紙の筒をひとつひとつ振る。空になっていないか。異物が混入している気配はないか。塩と胡椒の小さな瓶をひとつひとつ磨く。白い磁器の砂糖壺の蓋に溜まった目には見えない1日分の塵を拭うと少なくなったグラニュー糖を袋から足した。

そのとき視界の隅で彼が立ち上がり、帰る素ぶりをした。どうしたらいい。なんと応えたらいい。わたしは困惑し続けた。彼の会社ってどんな会社なんだろうか。会社が設けたフォークダンスの集まりっていったいどんなんだろうか。

フォークダンスでもなんでもいい。わたしは1度彼とゆっくりとりとめのない話をしてみたいとその時は考えた。週末は仕事だったけれど頼めばきっとお店を休ませて貰えるだろう。カウンター係の同僚がわたしに会計を指示するとわたしは彼とレジカウンターで向き合った。

いろいろなことを考え過ぎて心拍数が益々上がっていく。わたしは彼の目を全く見られずにさし出された千円札を受け取りお釣りを手渡した。するとねえわからない?僕、弟の方だよ。彼が言った。

弟?

わたしは咄嗟に彼の全身を隈なく見た。鼠色のジャンパーに紺色のズボン。そして顔を見る。わたしは今夜の彼をてっきり兄の方だと思い込んでいたのだ。わたしがそう言うと彼は満面の笑顔で弟なんだと繰り返した。

フォークダンスの集まりはあまり面白くはないよ、と言い、片手をズボンのポケットに、もう片方の手をバイバイと小さな子どもがそうするように振り、彼は店の自動ドアを出て行った。

わたしは自動ドアを出て彼の後を追った。彼の姿は駐車場の夜の闇に紛れてもう見えなかった。その後すぐわたしは店を辞めた。わたしが彼を見たのはその夜が最後だ。

その夜のカウンター係の同僚は隣町の出身で、双子の弟はある日店でわたしを見かけて、わたしと交際したいと思い声を掛けたのだと聞いたのもその夜のことだった。わたしはなにがあっても双子の兄と弟を見分けることが出来ないままであったのだ。