牧場が好きだ。牧場は動物がいるけれど動物園とは違う。
そして動物園も好きだ。
牧場では動物園をふと思い、動物園では牧場で過ごす品種改良されて搾乳される牛や毛刈りの順番待ちをする羊を思い出す。
それでどこに住んでいても何と無くいつも動物園と牧場へ出掛ける段取りをたてている。関東にいた時はとにかく上野動物園へ繰り返し通った。牧場は千葉のマザー牧場と、遠いのだけれど北海道の道南の牧場へよく行った。
小森厚著「もう一つの上野動物園史」「東京公園文庫16 上野動物園」を繰り返し読む。上野動物園は敷地は狭いが多種多様な動物が揃っていて見応えがある。まあ、日本中の動物園を知ってるわけではないから正しい評価とはいえない。
先週車で1時間ほどの所にある小さな牧場へ行った。子どもたちがまだ学生の頃に家族で行ったきり、久しぶりに行ってみたらずいぶん家畜の種類や数は増えていたし、イベントやフードコートも充実していて驚いた。
若い雌牛たちの育成舎は清潔で静かな森の脇にあった。逆光で映らなかったけれどいい雰囲気に思わず何枚も写真を撮った。
動物たちとの触れ合いスペースへ自販機でチケットを買い入場する。バーコードを読みましたの合図に「モォー」という鳴き声が出るゲートを通り抜ける。おお、なんだか楽しくなってきたよ。
私はその日そこの触れ合いスペースで一頭のロバに会った。
ロバ。ロバ。私は唸った。もしかしたらはじめて会う?
ロバは低い白木の柵から身を乗り出し、友好的な眼差しを私に向ける。たしか上野にはロバはいなかった。北海道は牛がメインだったし、マザー牧場へは羊毛の買い付けがメインだった(羊毛は牧場で買うと安いのです)。
ロバといえば「ペリーヌ物語」のパリカールだ。「家なき娘」。原題をアン・ファミーユ。ペリーヌ物語はひと昔前、日曜日の夜NHKの世界名作劇場というアニメのシリーズだった。シリーズ史上最も過酷なヒロインペリーヌ。そしてアニメとはいえちょっとしたロードムービーである。私は原作も2種類購入している。
ペリーヌ物語においてペリーヌとともに旅をするギリシャのロバ、パリカールの存在は大きい。ちなみにアニメに出てくる犬バロンは原作には無い。そしてパリカールはお話のラストでも、ペリーヌが祖父ビルフランからプレゼントされる馬車をひいていてとてもかっこいい。
パリカールはロバとして荷役に携わり、コンパニオンアニマルとしてペリーヌを支えるのだ。
私はそんなことを考えながら触れ合いスペースのロバに人参を食べさせてみる。
それにしてもこの牧場の触れ合いスペースは素晴らしい。触れ合う触れ合う。動物たちがとにかく近い。私は子鹿やマーラなどの呼び物たちとひととおり触れ合ったあともう一度ロバの柵へと戻った。
辺りに人はいない。
私は恐る恐るロバのたてがみを撫で、恐る恐るロバの首を抱いてみた。優しい瞳。毛並みも素晴らしい。ロバは思ったよりも柔らかい肌触りだった。
「‥‥‥パリカール?」
私は呼んでみた。
もちろん返事はないよ。