福田里香「チョコ+スイーツ×ラッピング」

Amazonで買った挽き割りオートミールが二箱届いた。オートミールの挽き割りは美味しい。何度も言うがこれは美味しい。

さて、夕べ出掛けて留守のあいだに長女がショートブレッドを大量に焼いた。帰って来たら粉糖が無かったが上手くいったと鼻の穴を膨らませていた。長女は昨日午後からショートブレッドショートブレッドと本をパラパラレシピを探っていた。

NHK出版 福田里香「チョコ+スイーツ×ラッピング」p70にラベンダー乾パンというエッセイがある。その昔筒井康隆の小説で「タイム・トラベラー」というのがあった。主人公の女の子はラベンダーの香りで時空を超えて過去と現在を行ったり来たり。そこで福田は女子学生たるものラベンダー入りのショートブレッドカロリーメイト宜しく携帯すべし。深町君に会いに行こう、いざトリップだと楽しい文章を載せている。

福田里香という研究家は楽しい。彼女のPBブレッドの本もいい。使える本でプレゼント用に3回くらい買った。

このラベンダーカロリーメイトのレシピは粉300gにバター170g粉糖90g。同じ本にストロベリー定食というエッセイでスコーン生地があるがこちらは粉200gバター100gPBと砂糖を牛乳80gでまとめるものだが、ショートブレッドの手順はスコーンとよく似ている。しかしラベンダーカロリーメイト(ショートブレッド)はwet無しでさらさらがぼそぼそになって何と無くギュッとやってそれ〜と焼き上げる。多過ぎるバターが掌の温かみで微かに緩む頃を見計らい形を仕上げるのだ。丁寧にかつタイミングを逃さずにだ。

実は福田のレシピには卵黄とあり、卵黄のwetで形を作るのはそんなに苦ではない。わたしはある時この卵黄を外してやってみたところぜんぜん行けた。そして卵無しの方がスコットランドさが出ると確信したのだ。もちろん福田はスコットランドとは無関係だが私的理由でそうさせてもらった。

ラベンダーカロリーメイト(ショートブレッドです)は何年も作り続けている。ラベンダーはバターとは好相性だ。何処へ持って行っても好評でレシピを知りたいという女の子が真剣な目つきで迫ってくるほどだ。

ある時ぜんぜん上手く作れない、とメールが来て、わたしはある女の子のアパートを訪ねた。分量にも工程に間違いは無かった。なぜ上手くいかないのかはすぐわかった。そのアパートは気密性があり冬の時期で室温が高かった。そして彼女はおっとりと捏ねる様に粉を扱っていてバターが溶けてしまっていた。溶けてベタついた生地を焼き上げたショートブレッドは仕上がりが驚くほど固かった。わたしは自分が慣れているからこそ手早く出来るとメールで説明したがそれは間違いだった。

陽の光が優しくて温かみある台所と穏やかな時間の流れ。そして彼女のまるで眠くなった時の幼児のような熱い手のひらはショートブレッド作りには向いてはいなかった。彼女の落胆は大きい。何か訳があり、このラベンダーのショートブレッドで勝負をするのだという。

人にはそれぞれ向き不向きというものがある。わたしは彼女が好きだった。どうかそのままで、可愛い女の子のままで居て欲しい。ショートブレッドなんて買えばいい。わたしは少し悩んでなるべく手を使わずに作ってみたら、卵黄を入れたらヘラでもまとまるからとだけ言い残してじゃあね、手を振って別れた。

ラベンダーが紅茶になったり、粉糖が黒糖になったり、行けそうな日にはタカナシの生クリームで強力粉でやってみたりと、ショートブレッドにはスコーンとはまた別の醍醐味がある。クッキーではない。何しろ携帯するのだ、女子学生が深町君に会いに行くのだ(意味がわからんぞ)。

「チョコ+スイーツ×ラッピング」をぱらぱらと見ている。あちこちに書き込みがある。バナナチョコレートケーキのレシピはチョコを市販の板チョコのg数に、PBを訂正して卵を増やし、焼成温度を低めに設定している。これ焦げたんだなきっと。覚えてないけど。粉を手にすると人格が変わる。娘たちはよくそう言ってわたしのことを笑うが自分ではよくわからない。確かにわたしの手はいつも冷え切ってはいるよ。

柔らかい心持ちでは失敗してしまうスコットランドのお菓子のことを今日だけは切なく感じる。長女のショートブレッドのサクサクっぷりがハンパない。このサクサクを卵黄無しでやり遂げるとは我が娘ながらあっぱれ、御主いっぱしの野武士と見た。

リビングでは婿がひとくちショートブレッドを齧りこれはちんすこう?と言っただけで長女にきれられ叱責を浴びていた。

スコットランドの旅はまだまだ終わらない。