診察日(2015年6月)

夫の謎の熱がもう3日続いている。真夜中、胸痛を訴える。救急車呼ぶ?いやいい。夜中に何度も起きて様子を見る。朝。今日はわたしの診察日。夫の休日に合わせたのだがそれも意味がなくなってしまった。もうロヒプノールキョーリンAPもひとつもないからとにかくいってくるわ。8時丁度の米原行きに乗るためラジオ体操もそこそこに家を飛び出した。

センセイ熊が暴れているよ。呟く声。熊?診察で思わぬ展開に。わたしは記憶が途切れ途切れ。頭がすごく痛い。左腕が痺れている。ひょっとしてあたし診察室で暴れた?

うーん、どうする?薬打って昼まで寝て行く?

いや薬は逆によくない。打ち返すようにジョージは点滴を拒否だ。体がだるい。夕べほとんど寝てないから点滴もいいなあと思ったんだけどな。

よし、何か楽しい話しよう、楽しいこと、なんかないか?主治医が身を乗り出す。あたしは突然、クメール語は楽しいという話を始める。アンコールワットって知ってる?ふんふん。

よっしゃ、クメール語な、クメール語で今日は閉めよう。なぎら氏、上手に熊を封じ込めた。

タクシーに飛び乗り駅へ。目の前を電車がゆく。あーお姉ちゃんあと30分電車来ないよとタクシーの運ちゃん。ホームでiphoneに長女からメール。夫は大きな病院でCTとなったらしい。わたしは着歴を残そうといずこもしれぬ場所の夫のガラケーを鳴らす。8回。やっぱり出ない。

ねえ熊の封じ込めはどうするの?わたしは診察室でのやりとりを思い出していた。その話をしないことだ。主治医が言った。

しないよ、熊のこと、誰にも言わないよとフライデーが頷く。フライデーはセンセイが大好き。熊の話ってなんだ?わたしは診察室で何か話したようだ。そしてその記憶が無い。

電車が来た。いっぱいの人。座れない。ウオークマンでスピッツの曲を聴く。名古屋駅。そういえば朝から何も食べてない。ホームのベルマートでおにぎりを買い発車前の電車のシートで食べていると夫から着信。

 どうやら肺炎と胸膜炎を併発。一週間の安静だと言う。癌ではないよ。はあ〜。良かったよ。わたしは残りのおにぎりをシートでワイルドに食べ終える。微糖の缶コーヒーを飲む。不味い。突然泣けてきた。おにぎりも不味かったのだ。

なんだか悲しくなるからスピッツブルーハーツにチェンジ。しかしどうやら泣けてきたのはスピッツのせいではなかった。ロクデナシのわたしはメソメソと泣きながら車窓を眺めた。

暴れないように。暴れないように。

熊?

忘れよ忘れよ。