学研パブリッシング〜クマを追え!ブレット―軽井沢クマ対策犬ものがたり

長野県の自然保護団体の初代ベアドッグブレットは亡くなっていた。現在はタマとナヌックという2頭のベアドッグが活動しているという。この本は児童書であるのでとても読みやすかった。読みやすいからといって内容が軽いわけでなく熊被害の現場の実情がひしひしと伝わってくる良い本である。

その団体に田中純平さんというベアドッグのハンドラーがおられる。この本は田中純平さんとベアドッグとの日々を書いた本である。軽井沢にはアメリカのWind River Bear Instituteというカレリアン・ベア・ドッグを育てている団体からベアドッグたちが来ている。

昨日午後友人とダラダラ。行きたいなあ長野県、犬を見に、ねえ長野。わたしは友人にしつこく話すのだが友人は無反応だ。友人の車は近所の里山に建つお洒落な一戸建てに着いた。そこは自宅をアトリエに改造している知人宅だった。

インターホンを押して中へ入る。アトリエには木工作品や山羊乳で作った石鹸などがセンス良く並べられていた。眺めていると気持ちが和らいだ。やっぱり手作りのものはいいなあ。

友人は我々の草木染めの作品をいつかこのアトリエに展示しようではないかなどと言う。アトリエのオーナーは30代の女性アーチスト。トンボ玉でアクセサリーを作っているそうだ。

草木染めをされるんですか?オーナーさんがわたしに尋ねる。あ、ああ、はい何と無く。わたしは心拍数が上がっていた。アーチストさんがどうも苦手なのだ。何故だかわからない。かっこいい感じの芸術家の人に会うとドキドキが止まらないのだ。

ふと展示されている木工細工の中の一台の飛行機が目に留まる。複葉機。タイガーモスだった。かっこいいなあ。食い入るように見ているとオーナーさんが飛行機がお好きですかなどと話しかけてくる。これ、木で作ってありますね。わたしはもたもたと答えた。

聞けばオーナーさんのご主人は毎月1度ここで木工細工のワークショップを開いていると言う。わたしは言った。わたし自己流ですけど熊を彫っているんです、やっぱり万力が要りますね、こうテーブルに付けてですね‥‥。

何故熊を彫るんですか?オーナーさんが尋ねるのでわたしはざっくりではあったが熊とヒトとの関わりのなんやかんやを話す。

面白いです、とても面白いです。オーナーさんは絶妙な相づちをくれる。わたしは「熊という動物はですね‥‥」の語りが止まらなくなってしまった。コンパニオンアニマルとしてのぬいぐるみのクマがあり、お土産品としての北海道の木彫り熊がある。

家に入る時にドアノブがこうこの辺りにありますよね。熊は秋に食べ物を探して民家に侵入する時にこうドアノブに手を掛けます。いえ、回したりは出来ません。はい。しかし不思議じゃありませんか。熊はドアから家に侵入するらしいんです。ヒトを観察してヒトの真似をするらしいんです。

いえこれは笑い話ではないですよ。熊の居住地域ではヒトが死んでますから。熊は不安に駆られて対象を攻撃しますね。悲しいことです。わたしは思うんです。熊はいったいなんのために地球上に存在しているのかって。

そうですね、本当にそうですね。オーナーさんが切ない表情でわたしを見た。そしてこのような熊の話を何処かでされているんですかと尋ねた。友人がいえこの人はただ熊が好きなだけの変わり者ですと説明をする。わたしも頷いた。

わたしはワークショップの申し込みをしてオーナーさんと別れた。年明けから木工細工の先生から木彫りを教えてもらえるとは。わたしは友人に抱きつきたいくらい嬉しかった。

友人が言った。

あたし陶芸がやりたいんだよね〜。

やったらいいさ。

草木染めはどうするの。

全部やったらいいさ〜。だよね〜。

我々はハイテンション。夕陽に照らされた山々の峰が美しい。ああ長野。わたしは振り出しに戻った。