連載小説 小熊リーグ㉜

https://instagram.com/p/-WTAwylgzE/

その夜彼女は僕のベッドで朝まで一緒に眠った。彼女は眠剤を飲むと、僕に抱かれてすぐに眠ってしまった。眠剤を飲んだが全く寝付けなかった僕は朝方早く洗面所で歯を磨きもう1度ベッドに戻って、まだぐっすりと眠っている彼女にキスをした。

僕が初めてセックスをしたのは12歳の時だ。相手は父のクリニックに勤務していた5つ年上の準看護婦だった。彼女の名前も顔ももう今は思い出せないが、当時僕は彼女とのセックスに溺れながらも彼女に強い憎しみを抱いていたことだけを覚えている。

ある日の午後、彼女は踏切自殺をした。父に来るなと言われたがわからないように僕は父の後をついて行き、踏切で散り散りになった彼女の肉片を見た。怖いという気持ちは無くただもう彼女とセックスは出来なくなったのだということだけを繰り返し考えた。

それから何人かの女性とセックスしたり、時には翌朝まで一緒に過ごしたりしたことがあったがそれはあくまでも衝動のはけ口であり必然的な行為としか感じられなかった。

1度尋ねられるままに白川医師にそんな打ち明け話を時間を掛けてしたことがあった。白川医師は随分若い時から何人もの人と経験があるなんて結構やり手だななどと見当違いのことを言ってその場をやり過ごしただけで僕の心の闇についての分析はしなかった。

何度目かのキスでようやく彼女は目を覚ました。

「お早う」

その瞬間に僕は高まっていた性欲が鎮まるのを感じた。不思議な感覚だった。さっきまでの僕の欲望はまるで砂浜に作られた砂上の楼閣のように、突然の高波によってさらわれてあとかたもなく消え去っていた。

しばらくすると今度は僕が猛烈な睡魔に襲われて眠りこけてしまい目覚めた時には昼を過ぎていた。部屋には彼女の姿がなかった。僕は少しだけ安心してからやっぱり少し淋しかった。

着替えて珈琲を淹れているところへ彼女が帰って来た。彼女はどうやら買い物へ行っていたようだった。僕たちは珈琲をミルクで割って2人分にして飲みなんやかんや話した。

僕が今の父の家に引き取られて来た時僕は5歳だったから僕の育った家にはまるで女っ気がなく、髪をとかしたり化粧をしたりする彼女の見繕いの様子が珍しくてあれこれ尋ねたりする僕に彼女は笑いながら答える。

「ねぇ、僕のことを先生って言うよね」

「じゃあなんて呼べばいいの」

「なんだろう。名前とか」

「先生下の名前なんだっけ」彼女が笑った。

僕も笑った。

「例えばさ、どんな名前が好き?」僕はへんな質問をした。

「エド」彼女が言った。「エドって誠実そう。エドって国会議員みたいでかっこいい」

「じゃあエド」

「いやいや先生はエドって感じじゃないよ〜」彼女は大口を開けて笑った。「先生でいいじゃん。あたしの先生だったんだからさ」

彼女は自分のことは翔子って呼び捨てでいいからねと言った。それから僕たちはアパートを出て遅いランチへ出ることにした。彼女の買ってきたものは自分用のリップクリームや歯ブラシなどの日用品で食べるものが部屋にはなかったのだ。