Little White Boat (小白船)

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出来事の記録。週末午後ひとりで近所の図書室(図書館の出張所)まで歩く。途中どうしようかと迷ったけれど店が開いていたのでついついふらりとまたいつもの骨董品屋へ。

よく来たよく来たと歓迎される。戸惑うわたしに店の主人は木彫り熊をどうだと持って来た。木彫り熊は三体。三体とも鮭をくわえていた。

どうだいどれが一番いい熊なのよ。

どうやらお客が無くて店主は相当暇らしい。わたしはひとつひとつ丁寧に熊を調べた。よいしょ。抱きかかえる。

やっぱ目方は大事でしょうななどともっともらしいことを言ってみる。正直木彫り熊の鑑定など出来る訳がない。わたしの基準はひとつ。ごっつい迫力がある熊ならばそれは何より良い熊だ。

それはつや消しの黒塗りで体高が20cmはある大きい熊だった。しかしやたら大きいだけで荒々しい息遣いは感じられない。目玉の掘り抜き加減が左右均一でなく言わば焦点が合っていなかった。きみラリってる?そういう作風?足の裏の金釘調の銘は旭川の物のようだった。8000円。

次の熊は記憶がほとんど無い。つや消し黒塗りで体高は13cmくらいか。抱きかかえた時にちらりと三つ目の熊と視線が合ってしまってわたしはすぐさま熊を下ろす。そしてこんにちはをしている三つ目の熊に顔を近付けた。

体高は10cm前後。小さめの熊だ。平らで大きめの丸い耳と豚のような上向きの鼻。独特の個性を放っている。彫りは毛の流れが細く深く、硬質で密な樹種を示していた。朱色に近い橙色。オンコかな。均一な木目が背に美しく走る。荒々しさとは無縁の決め決めポーズ。デザイン性が高い。作家の物だろう。熊自体に本州の雰囲気がある。一瞬、室蘭辺りの大名の持ち物のような気がした。3500円かあ。面白い木彫り熊。安いかも。

なーんか、それ、いいよね〜。店主が言う。わたしは店主を見つめる。‥‥頂戴。何言ってんだ!売りもんだよ。冗談の通じない店主である。

わたしは店主になんで熊三つも買ったの?熊集めるの?等々尋ねるとわたしが熱く熊を語るのでわたしに売りつけようと考えたなどと言う。言っとくけどわたしはコレクターじゃないよ。じゃあなんだね。研究家なの。研究家なら熊が要るだろう。

ところでお父さんは大金持ちなの?わたしは親しくなるとその人をお父さんと呼ぶ癖がある。

んなわきゃねえだろ。

じゃあ無駄遣いしないでもっと売れるものを仕入れた方がいいよ。

あんたが熊好きだって言うからさ。

あたし買うなんて言ってないもん。その時ふと棚の下の段で埃をかぶっている鋳造の羊が目に入った。耳のところでぐるりとツノが巻いている。メリノ種の牡だ。そして何故か仔羊も付いている。

わたしはしゃがみ込み羊の鋳造物を苦労して取り出した。重い。羊の体高は15cmか。たっぷりと毛をまとっていて豊かな羊。干支関連の置物に違いないのだが迎春感はまるで無い孤高の牡羊。かっこいいな。台座も鋳造で傾斜があり、裏からネジ止めして溶接接合した痕がある。

サビ付いた古臭い鋳造の羊が1000円とは高いが1000円と値が付いたことを羊自身戸惑っているようにも見えた。いいんだよ、きみは1000円で。わたしは羊をなでなでして財布から金を出すとなんだよ羊も好きなの?と店主が言った。

わたしは羊をリュックに入れる。間違っても肩に食い込む重さの物を図書館へ行く途中に買ってはならない。

なんだろう。わからない。重いけど嬉しい。

Little White Boat (小白船)は朝鮮民謡。だけどディックリーが中国でも歌ってると書いていた。そしてディックリーも歌っている。

https://m.youtube.com/watch?v=I2Jxfx_6M3o#

気になって探したらありました。

コリデール種はもう日本の牧場では滅多に見なくなりましたがコリデールメリノはレトロな羊です。