池田書店 渡部和泉「漬けるおかず便利帳」

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引越し荷物の中に沢山中国のお茶がある。主人がかつて勤めていた食品商社時代北京出張というのが何回か有りその時に買って帰ったものだった。真空パックと缶詰めのものだけが残っていた。

毎朝それを飲む。緑茶だけれど日本茶ではない。詳しく調べれば何か解るかもしれない。主人は北京が苦手だったから出張の朝はそれは苦しそうだったな。それでも10年近くその会社を辞めなかったのは何か理由があったのだろうかと最近考えたりする。そこは本人に聞いたりはしないのだ。なんか知らないけどそういうのが我々の決まりである。

大きめのマグに直接茶葉を入れ熱湯を注ぐ。乾燥した小さな葉っぱがみるみる蘇り広がる。それを確認しつつ飲むのがとっても楽しい。

ふたり暮らしになるとたいてい暮らしの嗜好はわたし優先になる。そして多重人格者の「今」はめまぐるしい。主人は振り回されてばかりの半生だ。

引越し当日部屋に電子ピアノが運び込まれると「なんで風呂はねえのにピアノなんか買うんだよ」と友人が仰天した。その上台所には不似合いな薄汚れた作業台を設置。友人は言った。「もしかしてオマエ末期癌なんじゃねえの?」「御免あたし愛されてんだ」わたしは返す。

スーパーで見切り品を漁る。まだ綺麗なグリーンアスパラやいつも売れ残るフレッシュハーブたち。週末にはSEIYUの見切り品ワゴンに何種類かのハムを見つけた。賞味期限が迫っているちょっと珍しいハムたちだった。半額。ごっそり買った。

夕方数日前にスライスして冷凍してあったプンパニッケルを常温に戻し、クリームチーズを冷蔵庫から出しジェノベーゼソースの瓶も開ける。ブロッコリーとアスパラ、カボチャは蒸した。買ってきたハム類を少しずつ大皿に並べてカルテスエッセンとした。

ドイツの人の書いた本を読んだがドイツ人にも夕食が毎回カルテスエッセンの人はなかなか居なかった。週に数回のカルテスエッセン。

赤ワインと何種類かのスライスハム。嚙み締めると旨いライ麦パン。

わたしはただのドイツかぶれなのであるがこのカルテスエッセンもどきを主人が予想外に喜んだ。彼はハムが好きなのだ。ハムなら俺に任せろ。主人はハムにはうるさい男だったのだ。

高島屋の地下にドイツのハムの専門店あるで。よし行くか。でも肉より高いんだよ。いや行くぞ。おお、おおおお、だいぶ酔ってるよ。

「漬けるおかず便利帳」は数年前に図書館でヘビロテの後購入した。塩蔵や砂糖漬け、酒粕、オイル、酢など様々な漬け込みテクが限られた字数で綴られている。『もっと詳しく知りたければ自分で作るが良い』。そんな言葉は書かれていない。だけどそんなのを感じる。この本は使える本である。カルテスエッセンに野菜を増やすのだ。

ドイツではカボチャのピクルスが当たり前らしいよ。やっていいかい?

主人がわたしをジッと見る。

カボチャはホクホクに炊いたのを白飯で食べたい。

主人はちょっとそんな顔をしていた。