沖縄海遊び③

f:id:fridayusao:20161025191832j:plain

週末のお昼。週末と言っても毎日遊んでばかりのいい身分の我々にはすでに曜日の感覚は薄れつつある。浜比嘉島という小さな島にある沖縄郷土料理のお店でランチ。そののち海ぶどう養殖場を見学した。

その日の夜のことだ。友人がウミホタルを見に行こうと言った。海岸へと車を走らせた。橋を渡った離島の舗装されていない道端に車を停める。細い辻には街灯が無くわたしと三女はiPhoneのライトを点灯し友人の後を浜まで続く藪を進んだ。

突然友人が大声をあげた。何?ヤシガニ、あたし今ヤシガニ踏んだ〜〜。わたしは咄嗟にiPhoneのライトを友人の足元に向ける。青っぽいカニのハサミが草むらには見えた。ヤシガニとな。とりあえず一枚写真を撮った。

生まれて初めて見たヤシガニは大きくて青々としていた。次の瞬間だった。わたしはなんとも言えない強烈な不安に脳内を塗り潰された。いやヤシガニではないのだ。そのときはもうなんというか自分を取り囲む闇の全てが怖かったのである。わたしの後ろもわたしの横も、頭上も足元も震え上がるほどの恐怖で囲まれてしまったのだった。だめだ戻りたい。今すぐ猛烈に車に戻りたい。

わたしの前方を浜へと向かう友人と三女の姿がどんどん遠ざかってゆく。意を決したわたしはどうにかなりそうな恐ろしさの固まりをキツめの三つ折りにして頭蓋骨に押し込むととりあえず重たい一歩を前へと差し出してみた。ああこういうの闇雲って言うんだなと頭の中で誰かが言った。

波打ち際の浜にある大きな岩の上に着くと友人が消灯せよと言うのである。わたしはとにかくへっぴり腰でライトを消した。まっ暗闇。響き渡る波の音。轟音である。わたしたちは大きな岩の上に各々寝転んだり座ったりして先ずは空の星を見た。空一面降るような星。三女が早々と奇声を発する。何?流れ星〜〜。三女は夢のような声で言った。

友人が起き上がり岩から砂浜へと降りた。危ないよー。わたしが声を掛けると友人は大丈夫もう暗闇に目が慣れたと言い放ち、やおら波間に向かって石ころを放り始めた。

ウミホタルは振動で発光する。わたしは目を凝らす。何も見えない。間も無く友人は岩畳に戻りウミホタルは今日は居ないということで我々は歩いてきた藪を車まで戻る。ヤシガニ無理もう無理マジ無理シャレにならない。わたしは思いつく限りの消極的な言葉を発し続け歩く。

「怖い」の一言だけは言いたくない。それを言ったらヤシガニの勝ちになると、その時はそう思った。

でも負け。負けた。わたしヤシガニに負けましたわ〜