ラジオドラマ

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ブラームス op86 NO.2


ガタンガタン、ガタンガタン…。ようやく彼はマッシュバーンの街を抜け出すことが出来た。渓谷を駆け下りたオンボロのトロッコが失速するころには彼は疲れ切って眠りこけていた。どれくらいの時間が経ったのだろう。彼は目覚めた。松やにの匂いの充満するトロッコの底から明け方の赤い空が見えた。先ずは飲み水を探さないと。ホンドタヌキが言った。次の街でちゃんと警察に行くから。耳元で声がして彼は現実に引き戻された。果たして交番の巡査がホンドタヌキの拾得物の調書を書くだろうか?彼は笑った。つられてホンドタヌキも笑った。


うずら?。ホンドタヌキが看板の字を正しく読んだ。その店は砂漠のオアシスの中の一等地に建っていた。椰子の木陰のテラス席で強健なラクダ隊を引き連れた旅の一行が暑くなりそうな夏の日の旅立ちに備えていた。彼の耳はまだ元通りではなかった。キーンという耳鳴りがしてホンドタヌキが店主に支払い方法を尋ねている声が近くなったり遠くなったりした。彼は辺りを見回した。日が暮れる前に架空動物アフレコ組合に起きた出来事を報告したい。しかし忙しそうに行き過ぎる砂漠の商隊の雑踏にはぬいぐるみはおろか土産物屋も無い。快活に手招きするホンドタヌキを見、まあ焦ることはないと彼は深呼吸をひとつした。掌に火薬の匂いがまだ残っていた。


ラジオドラマ'ゼンマイ仕掛けの僕が見たニホンカモシカの夢'うずらFM〜「悪目のひと時」より