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カネコアヤノ'かみつきたい'


自分の人生恋をしたことなどはない。ハッキリ言い切れますか?落語愛好会の若い友人が裁判官のような口調で言う。


恋をしたであろう日々の記憶が蘇るに要する時間は14日。あれは大学に入りたて19歳、映画研究会の2年上級の先輩から駅まで送るよと声を掛けられた。短く切った髪、茶色いローファー、薄いピンク色のボタンダウンサックスブルーにトランプみたいな大柄の模様のベストを着ていた。こういう服装には何万円も掛かっている。私が大喜びで車に乗り込んだのは憧れの先輩だったからだ。このあいだ授業で一緒だったの男の子は君(君とかいう)の彼氏?違います。彼氏は?いるの?遠方にいます。すると先輩は言った。自分も本命の彼女がいるけど君はやきもちを焼かなさそう、君は何を言ってもいつも笑っていそう、だからお願いなんだけれど僕と付き合わない?こうして時々ドライブしたりしない?もちろん君の彼氏に迷惑は掛けない。


どす黒い野心が瞬間内心に湧いた。私はしばらく車窓を眺めていた。それからトランプ模様の次の台詞を待っていた。


なあんて、冗談冗談。ちょっとこういうの映画みたいでしょ、やってみたかったんだよね。


トラッド男からはどちらの台詞も出なかった。私は車を止めてもらい、順序良く丁寧に言わねばならないと思った話をした。私は自分が樹木希林そっくりだと気づいた。寺内寛太郎一家時代の悠木千帆時代の樹木希林だった。


先輩は私のこと好きですか?最後にこう尋ねるとにわかにカッコ悪い男に成らさせられた彼は苛々して好きじゃないと苦笑。動悸と不安、心拍数の上昇、心の痛みと哀しみ。そんなんじゃない、恋なんかじゃない、俺たちが持ってるのは汚ねえ野心と弱いものへの虐げだろ?私は今度は自分が談志そっくりの渋い顔付きになっていることに気付いた。