一枚貝

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おかあさんといっしょ「明日は晴れる」

 

今日精神科診察日。ふと悲しくなって涙が出ます。わたしは笑顔。はきはきと説明した。早く帰りたいと内心では思っていた。悲哀発作に悩まされているのは嘘ではないがここで話しても仕方がない。困るんですよ突然涙がこぼれてきて。わたしは続けた。どんなことを思い出すのかと先生。うん、あのね、数年前コロナで入院をしたときのことだよー。ヒソヒソ声のわたし。子どもの様な話し方。パチパチパチパチ。先生は怖い顔をしてキーボードを打ちはじめたいる。もう帰りたい、辛い、悲しい、助けて、もうやだ。脳内で声たちが止まらなかった。

 

採血しましょう。え?内科の検査をしないとね。来月の予約をして、隣室で採血。サクサクと薬をもらって帰宅。

 

ホームで空を見る。秋が来て地球は傾斜していた。わたしは泣いた。今安定してるからなにか辛いこと思い出したのかな。わたしは先生の言った言葉を思い出していた。PTSD?んー、ピンキリだな。ピンキリ?ピンキリのトラウマって?笑えて来た。それなのに涙なみだ。どーなってんだ俺は。一人称俺が語り出す。

 

もはや何処が痛いのかよく分からない。熱いような射し込むような頭部や顔面の痛み。呼吸するたびに襲い来る胸痛。バッグの中にセデス・ハイが入ってるはずだ。わたしはベッドから起き上がりバッグのポケットにセデス・ハイを探した。あった。朝2本配給されるペットボトルの水で呑み込んだがその日のうちに担当医から電話でバッグの中のセデス・ハイを全部出すようにと告げられた。今になって思うんだがな、もしかして入院中の自分、定点カメラが捉えていた?何故だろう。入院中はそんな簡単な発想すら起こらなかったのだ。

 

記憶はぶつ切れ。もちろん記録などはない。覚えていること。右手に付いている血中酸素濃度の測定器が夜病室の暗がりで赤く光る様子に見とれた。鮮やかなカーマインレッド。わたしの人さし指。点灯したそれをわたしはスマホで何枚か写真に収めた。さっき探したがそんな写真は何処にもない。

 

覚えていること。向かいのベッドにお年寄りの女性が入室。アレルギーの有無を尋ねられた女性が貝類が駄目と答えたところ、暫くして看護婦が戻り、どんな貝が駄目なのかを詳しく知りたいと言った。女性は言った。二枚貝が駄目。看護婦はわかりました、と引き下がったが女性が大きな声で看護婦を呼び戻し言った。一枚貝ならば食べられる。

 

……一枚貝。一枚貝ってなんだろう。わたしはその瞬間に脳内の霧が薄らいだのをたしかに感じたのだ。いちまいがい。あー、アワビか?ベッドは皆カーテンで仕切られて居るので一枚貝とは何かと女性に尋ねることは憚られた。

 

カロナールください。なんで駄目なの。なんの溶液だか分からない点滴一式が消え去り、わたしが看護婦に話す内容は今のところこの言葉のみ。県知事は公費で治療する入院療法者の病状に過敏だった。高熱であること。高熱は入院療法の条件だ。担当医がわたしに電話で説明する。点滴っていっても普通じゃない。肩から腕に掛けての痛みがどうしたって我慢できなかったわたしは今すぐ点滴を辞めるよう担当医に電話で指示した。解熱剤呑んだら発熱分からなくなるよね。まあ、はいというしかない。

 

あろうことか看護婦はカロナールを二錠持って病室へ戻ってきた。高熱が確認出来ればのんでもいいそうです。看護婦の声が明るい。そしてお年寄りの女性に彼女は言った。あの、一枚貝ってたとえば何ですか。

 

このときお年寄りの女性がなんと答えたのかを思い出せない。カロナールをのむことに全神経を集中してうっかり聞き逃したのだろうか。それとも女性は一枚貝についての説明をわたしには聞こえないカタチで(例えば貝類リストに丸つける、等)行なったのだろうか。

 

こんなこと?もっと他にあるはず。(この記事は続きます)