診察へいく。あたしが良くなった、って言うと、どんな風に良くなったんだ、そしてそれはどんなきっかけで良くなったんだと先生は厳しい。あたしの言葉を先生は全く信用しない。
疑っているわけじゃない。弱音を吐いていいよと言ってるだけ。みっともない言葉を並べていい。悲しいときは悲しい。苦しいときは苦しい。嫌なことがあれば話せということ。
バカみたいだけど、あたしは今もクマのことで苦しんでいる。あの小さいみずぼらしいクマのぬいぐるみのことを忘れることができない。わたしはクマを裏切った。クマを殺したよ。あたしが居なくなりさえすればいいとか別に誰かに言われたわけじゃない。誰かに言われたらあたしは言い返す。あんたに何がわかるんだよ。上手くいかない。怖い。失敗ばっかりだ。もう過ぎてしまったこと。許してほしいとは思ってない。許されることだとは考えてない。ばかみたい。ぬいぐるみでしょ?
でもあたし勘違いしてるよね。そりゃあたしは死ねば楽になるけれど、あたししか知らないことたくさんあるって思うよ。彼がどんなに勇敢で彼がどんなに優しくて彼が居てくれれば彼がここにいてくれたらそれだけでよかった。そんなこときっとあたししか知らない。
あたしは彼を殺した。お前ぬいぐるみ相手に何言ってんの頭おかしいって思うだろうけど。
じゃあなんでクマを調べてるの?危険な動物を側に置きたがった昔の人たちのいったい何を調べてるの?信じてるからだよね。本当は思ってるよね。わかってくれる人を求めてる。どこかにいるんじゃないかって期待してる。
それは違う。そんなことはまったく考えてない。悪いけどそんなことじゃない。
クマを調べてると気持ちが楽。ただの快楽。わけなんてない。馬鹿は死ななきゃ治らない。でも死んだらクマを調べられん。それだけ。