青空

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福山雅治家族になろうよ

 

その女性はいつも前に進んでいた。誰かを断罪したり何か不平を言ったりしても良さそうなときもそれをしなかった。不足の多い事態でもベストを尽くした。

 

夫は戦争で脳をやられてときどき出奔していなくなってしまう。彼女は夫を探しあて、夫としてそして父親として(彼女には小さい男の子が一人いた)の責任を果たす機会を彼に与えた。そうして男の子が自分は父親に愛されているとだと信じることが出来るようにした。

 

彼女は腐らなかった。海に面した小さな町から何時間も汽車に乗ってはその都度夫の居場所を突き止めた。彼女は時に行商人として移動をしては男の子をお父さんに会わせる。故郷の何かを夫に届ける。

 

ある時夫は知らない女性と新しい世帯を持っていた。彼女はその女性を家族として男の子に説明した。そして折り返した。海辺の町へ帰った。長い長い汽車での帰り道、彼女は汽車が線路をひたすら走るが如く前に向かって帰路を征く。

 

そのとき私は二十歳だった。わたしは彼女に強い影響を受けた。わたしは結婚もしておらず、お腹に赤ん坊がいた。誰一人わたしに祝福の言葉を掛けてくれなかった。しかしわたしはお腹の子を産もうと決心した。

 

大人は子どもに対して大きな責任がある。大人は子どもに愛を与える責任がある。守備良く事態は進展せずともその責任をけっして逸してはならない。それがとてつもない大仕事だとしても絶対に諦めるべきではない。

 

わたしは象徴としての汽車に乗り、駅をひとつ、またひとつ進むようにして未熟で不足の多い親としての一歩をそうして踏み出したのだった。