when Rabbit Howls 兎がわめくとき

「When Rabbit Howls」は1987年にアメリカで出版されたDIDのライフストーリーだ。著者のトラデイチェイスは2010年に亡くなった。

私がこの本の存在を知ったのは2000年。買った記憶のない私物を部屋に発見したり、娘の高校の入学式で失神して運ばれたりした。どうやら自分はDIDというけったいな病いを抱えているらしいという自覚が芽生えたころだ。

どこでこの本のことを知ったのか、ただ題名だけを覚えていた。10年以上たった今この本を思い出したのには訳がある。兎がわめいているからだ。私の脳内兎たちが再びわめき始めたからなのだ。

兎といえば欧米では「不思議の国のアリス」であろう。しかし私はこのお話を読んでいない。ジョニーデップの映画は観た。ちなみに私はジョニーデップと同い年である。だからなにと言われてもあれだ、だけど私は伊藤博文ドラえもんと誕生日が一緒だ。これはちょっと自慢だと思っている。

兎と人間の関わりについてここ数日考えている。兎は家畜としてはそこそこ有用だ。毛皮を取ったり肉を食べたり出来る。繁殖もどちらかといえば容易な方だ。

兎は大きく分けて2種類、穴兎と野兎がいる。この2種類は生態が対極にある。大雑把に言えば穴兎は臆病で神経質、一方野兎は野性的で奔放だ。飼育し易いのは穴兎で、ペットショップで売られている様々な兎は皆穴兎である。私はライオン兎という毛深い兎を繁殖させてペットショップに出していたことがある。

出産後の母兎が危険を察知して子兎を喰ってしまうことはよく知られている。私も実際に見たことがある。飼い主である私との間に信頼関係が培われれば母兎はもうそこまでストレスフルになることはなかった。動けるようになった子兎たちを私の前に出るよう促すこともあった。

穴兎の臆病で尻込みしがちな性質は影を潜め、兎たちは懐いてくれた。挨拶を返すかのように足元にまとわりつき、体の接触を好んだ。

私が野兎に興味を持ち始めたのはその頃だった。ルイスキャロルは3月の気違い兎と書いているらしいが、兎の繁殖期は一年間続く。それでも兎たちは寒さに強いから、2月の冬の頃はやっぱり生き生きとしている。

日本でも東北や北海道へ行けば野兎が見られるらしい。冬に北海道へ行けば私は兎の足跡を夢中で探す。

ひと目でいい。

野兎を見たいのだ。

私はイマジナリーフレンドとして兎を抱え込んだという記憶はない。兎たちは随分昔から脳内に存在している。兎たち自身がそう説明しているのだ、という説明には説得力はないだろう。兎たちの声は私にしか聴こえない。

DIDと兎にはおそらく関わりがある。

人間と兎には何かの相関性がある。

私の確信を誰かに話したい。

トラデイチェイスに会いたかった。