柴田書店「Fixingと一緒に楽しむ Zopfが焼くライ麦パン」

5月が嫌いだ。5月のせいにしよう。きっかけも原因も不明だ。何か脳がおかしい。ひとつひとつの行動が繋がらないのだ。何をするにも気合いがいる。いちいちスタートダッシュをせねばならない。今何をしていたのか、これから何をするつもりなのか。記憶も思考も立ち上がらない。行程がありそれをこなすだけ。始めたことを終える。集めた塵を捨てる。集め方、捨て方、それだけだ。

記憶の途切れ具合が酷い。パン種の水の分量を見る。次の瞬間その数字が消える。また測る。自分の後ろ姿を追いかける。途切れる印を補うかのように様々な仕事をやりかけのまま放置。

パッと見には良く動くお手伝いさんだがなんだかよくわからないまま1日が終わる。不安も苛々も全くない。それほど長く何かを考えてはいられないのだ。無感情、無感覚。しなければならないと思える作業でまだしていないことに手を付けて進む。柴田書店ライ麦パンの本はゆっくり見ることが出来ない。きっかけが無い。

当然感動は失われている。味わうなどはとっくに無い。すべて5月のせいだ。間も無くやってくる5月のせいだ。

今日市場でイカを見た。これ、なにイカ?わたしが尋ねると魚屋のおじさんが耳イカだと言う。見たことの無いイカだ。手の中にすっぽり入る。小さなイカだ。帰宅後買ってきた耳イカをすぐ掃除。タコだ。よく見ると同じサイズのタコが一匹混入。ふん、構うか。わたしは鍋に投げ入れる。

沖縄の友人がモズクを採り、空輸してくれた。大量のモズク。酢の物、天ぷら、スープ。モズクを調理してゆく。一方で耳イカのレシピが定まらぬままなんとなく生姜と醤油、砂糖で煮る。こんなもんだろう。これしか思いつかない。モズク料理を同時進行しているうちにイカ鍋の前を行き過ぎた時、生姜とイカの香りに一瞬脳がはっとした。

モズク天ぷらを油から引き上げたわたしはイカの煮物の鍋にカレー粉を大さじに2回振った。待って、何してる?わたしの中の声。沸く寸前のモズクスープの火を止めネギを散らし、体を折り返しイカの煮物のカレー粉大量まぶしの鍋に今度はココナッツミルクを1パック投入した。そして丁寧に混ぜる。

ジンジャー、クミン、ターメリック。長女が言う。いやカレー粉、出来合いの。

ココナッツミルク?婿が言う。あーうん、そう。

美味しいねイカカレー。5歳が言う。

それ以外はモズク責めのけったいな献立だ。

ミッキーマウスだ!

5歳が耳イカを見て言った。

ほんとだ。あれ、これミッキーマウスだ。

耳イカ可愛いじゃん。わたしはミッキーマウスそっくりのスパイシーなイカの煮物を一口食べた。

まあ、ちょっと美味しいかも。

何日か振り。

わたしは夕食を美味しいと思った。