DIDはつらいよ〜車寅次郎へのオマージュ
この5月に始まった危機。昭和レトロなガラスのシュガーポットが引き起こした脳の混乱はこれまでにない規模のもので、死にたい力は郵便ポストを倒しそう。これはあかん、入院じゃ、ということになり急きょ荷物をつくり病院へ。
ところが当日の朝になり個室がとれない。大部屋への入院には主治医が同意しない。私としては始まってしまったこの逃走行動をどう収めていいのかなす術がない。しばらく診察室でだだをこねていたが、主人に諭され帰途についた。
死なないようにと頑張りながらの数日後のことだった。沖縄の友人が脳卒中でICUへ入ったとの一報が入る。私は数日前ほどいたばかりの荷物をまたまとめ、その日の夕方のスカイマーク便で那覇へと旅立った。
一人旅ではなかった。友人というのは三女の婿のお母さんだ。私の数少ない知己である。ということで三女と婿との三人旅。そして幸い経過は良好で、友人は体に麻痺も残らなかった。
私は絶不調のさ中ではあったが旅立った。
主人はこのままだとやられる、という恐怖(かつて私は主人をボコボコにしたことがある)から解放され、私は日常からの逃避に成功した。
5泊6日を沖縄の田舎にある友人宅で過ごした。
沖縄はいい。少し良くなった友人と夕方のビーチをとぼとぼ歩いた。
そして沖縄の朝はいい。沖縄の町は夜型だ。だから朝の静けさには特筆すべきものがある。町全体が夕べは飲み過ぎました、ごめんなさい、とでも言っているかのようであり、独特の神妙な静寂に包まれている。
今回の旅でも私は早起きだった。朝6時、県道へ出てタクシーを拾い、近所の城跡へ。沖縄というところはいたるところに城跡がある。小雨が降っていた。負けかかっている私にはピッタリのロケーションだ。私はひとり、黙々と城壁を攻めた。すぐに息が上がる。結構な高さだ。頂上に着く。もちろん誰もいない。私は泣かなかった。
君塚良一「容疑者室井」、是枝裕和「誰も知らない」、荻上直子「カモメ食堂」。リュックベッソン、ティムバートン。DIDの本質はアウトサイダーである。DIDには帰る場所がないからだ。
数々の名作映画があるが最も気に入っているのが「男はつらいよ」である。48作。全部好きだ。好き過ぎるかもしれない。とにかくとにかくなのだ。渥美清演じる車寅次郎なのだ。
最も気に入っているのは第2作で寅次郎が母親に会いに行くやつ。そしてなん作か今は忘れちゃったけど沖縄の本部町で浅丘ルリ子演じるリリーと暮らすやつもすごくいい。
破綻と逃走。車寅次郎の人生に予定調和はない。誰も彼には近づけないし、誰も彼を救えない。でも生きていくのだ。生きなければならない。だってサクラが泣いちゃうもん。そして光男も頑張っている。
除反応?
そんなもん知るか。
レジリエンス?
むつかしいことはあとにしようぜ。
沖縄の海と空、そして小雨降る城壁の坂は私に再びファイティングポーズを与えてくれた。
今日の脳内BGMは山本直純「男はつらいよ」。
おーれがいたんじゃお嫁に行けぬ、ってやつね。
誰?浪花節好きなの誰?あー、いたいた。いるんだよね。ひとりいるんだ。脳の中におじさんが。
ではでは、今日はこのへんで。