池田書店「豪快BBQレシピ」たけだバーベキュー監修

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ハラペーニョとジャワのチリ〉

腹が減った、とか来週は暇だよ、とか使える独文を壁の黒板シートに書くのが楽しい。死にたい死にたいとエンドレスで押し寄せる虚無の煙幕をあっち行ってろこのヤローと押し退けては今日もなんとか生存している。

わたしは大人だ。こう見えても狂人のベテランなのだ。そうさ死にたい時にはどうすればいいかくらいは解っている。虚無に打ち勝つ手立ての1つは地球の重力である。Gだ。そしてGを手に入れたければ部屋の掃除をするのが良い。

半日も放置すれば家具や窓の桟にはうっすらと埃が積もる。布団またはソファに沈み込んだどうしようもなく重い身体を踏ん張って奮い起こす。そして積った埃をハンディモップですーっと払ってみるのだ。どうだ木目が生き返り家具や窓の桟がツヤを取り戻すではないか。これは素晴らしい達成感だ。

次は畳の上に積った塵である。はじめのうち塵なんかどこにも見えない。しばらく中腰で箒を構えヨロヨロと緩いサークルを描くようにして辺りを這ってみよう。おお、おおおお。僅かに塵が集まってきている。ここで塵取り。取る。これもなかなかの大仕事である。ああひぐ男。邪魔である。

埃と塵を取り払った室内には澄んだ空気が循環している。わたしは深呼吸してソファに再び寝転がりBBQレシピの本を見るのだ。引っ越してのちレンジ無し、湯沸かし器無し生活のなにが楽しいといえばそこはそうこれはBBQごっこなんである。

昨日は友人にお願いして車で道の駅まで連れて行ってもらい緑の野菜を何種類か購入。ホワイトボード代わりの冷蔵庫のドアには買ってきた野菜の名前がズラリと書かれてある。わたしの脳みそは先着1名様だ。上書きされて消される前にとにかく書いておくしかない。

畑に植えられた苗たちは付箋にその名前を書かれて窓の桟に貼られている。ズラリと並ぶ幾つかの野菜の名前。苗たちはまるでわたしの子どものよう。

たけだバーベキューは素晴らしい。それは彼がお笑い芸人だからだ。そして彼が一生懸命BBQに取り組んでいるからだ。お笑い芸人たちは哀しい。自分を捨て、時には係累に罵られ嘲られ日夜他人を笑わせることに執心する。俺たちの目標は笑わせることだ。間違っても笑われてはならぬ。

たけだバーベキューはBBQでソパデアホを作る。ソパデアホとかそんな小洒落たことは書かないし言わない。『出来た!ニンニクスープだよ〜!』である。こういうところが良いではないか。頑張れたけだバーベキュー。

わたしは閃いた。なんとなく冷蔵庫の在庫でできる感じの思いつく限りのスープメニューを黒板にリストアップしてみる。沢山は要らない。消したり書いたり試行錯誤。基本はあくまでBBQだ(なんでやねん)。

ジャガイモとソーセージのスープ。わたしはハッと思い出すのだ。これは”シュワルツヴェルダー カルトッフェルズッペ”だ。試しに独語を書いてみる。おお、おおおお。カルトッフェルはジャガイモ、ズッペはスープ。シュワルツヴェルダーとはシュワルツワルト地方のという意味である。

普通のジャガイモと普通のソーセージを水で煮込むだけなのに。この名前かっこいいではないか。舌を噛みそうなこの名前をわたしは何度も繰り返す。

気付けば先ほどから消したり書いたりで白いチョークの粉が畳の上にふんわりと溜まっていた。

微小な白い粉にも地球の重力が働いているのだ。(チョークは吸い込んでも害にならないハイパーチョークを使っています)。

わたしは本を閉じてキッチンへ。

ズッペを仕込むとしましょうね〜