診察日(2015年12月)

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伊吹山は雪景色。愛用のカバン。クマを押し込む。

わたしは主治医に1人の交代人格との別れを報告した。誰?わたしは首を振る。名前は無かった。いや、逆に彼女は幾つもの名前を持ち、長い年月に渡り膨大な量の仕事をしたのかもしれない。

もう居ないんだよ。涙が止まらない。わたしは打ち震えながら泣き続けた。

あんなこと、こんなこと、沢山。そう、みんな彼女がしてくれた。わたしが居ないわたしの脳内を虚無が駆け巡る。わたしの床は抜け落ちたままなのだ。探さないよ、これでいいんだよと声がする。

泣き止んだわたしは小説の話をあれこれと主治医に話した。もう終わりまでの絵コンテは上がってる。主治医は黙っている。わたしも黙る。長い沈黙。懐かしい沈黙。なんだかほっとする。なにも発したくはない。なにも考えたくない。

ハンティングナイフを貰ってさ。わたしは話をきり出した。わたしは先週とある友人からハンティングナイフを貰ったのだ。

わたし欲しかったの、ナイフが。ナイフを持っているだけで気持ちが落ち着くの。わたしは再び涙がこぼれた。情けないわたしの泣き声。先ほどから延々と続く。

ハンティングナイフをカバンに入れて持ち歩いていると自分が戻るのだと、ゆったりと安心するのだと多くのDIDは語る。わからないだろう。こんな気持ちは絶対にわからないだろう。危ない、狂っている。誰だってそう言うに決まっている。

「アンタがそう言うならアンタはナイフをいつも持ってろ」と彼はわたしにナイフを手渡した。

わたしはとても嬉しかったのだ。彼の優しさが嬉しかった。狂っているわたしを受け止めてくれたのが何より嬉しかった。少しヤバい強い球を避けずに受けてくれた。わたしは思い出してはまた泣いた。もちろんナイフは今日は部屋に置いてある。わたしがカバンに忍ばせるのはクマだけだ。

今日も診察終了時間は無情にも迫りくる。わたしは深呼吸。

‥‥締めに入るか。他に今月楽しかったこと思い出せるか?

なんだか主治医の声がいつもより少し優しく感じられた。

わたしはそれが何より嬉しかった。