沖縄海遊び④

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沖縄の友人は今年サップをはじめた。サップはSUP。スタンドアップパドルである。長めのサーフボードをオールで漕いでいろんなことをする。次女はサップってあたしプロレスラー・ボブサップの超キツいフィットネスプログラムだと思っていたと真顔で言った。

もうそろそろサップをやろうよ、明日はサップだよという声が我々の中から生じてきていた。その日のランチはキングタコスの予定だったが我々はキングタコスのテイクアウト窓口の人だかりで順番を待つことすら疎ましいほどなのだ。もうコンビニにしようよ。我々は一刻も早く海へ行きたい。

橋で離島へ渡る。島のローソンでおにぎりを買った。友人は今日はテントを張るというので次女とわたしはノンアルを買う。甘いパンなども買う。着く頃にポテトチップスも買えばよかったなと思っていたらちゃんと友人が買い込んでくれていた。

連日長丁場の海遊びがじわじわと筋肉と脳とに疲労をもたらしていた。三女は今日は海へは入らないよとテントでくつろいでいた。テントと言っても四方へ風が抜けるタープのようなもの。浜辺に優しく座り茶色い長い髪を風になびかせる三女はまるで外人さんみたいだ。

数日前三女は満潮近い海面から岩場へ上がる時にバランスを崩したところをライフセーバーさんにタイミング良く助けられたのだが、その時のライフセーバーさんと三女とのやり取りは全て英語だった。

その若い男性のライフセーバーさんは三女を容貌からしててっきり白人女性だと思い込んだ。三女は三女で英語しか話さないそのライフセーバーさんを日系外国人だと思い込んでいたのだ。

さて友人とわたし。我々は長いサーフボードに前後に座り沖を目指して進む。まずはボードに慣れる訓練だと後方のわたしはオールでせっせと漕ぐ。友人は最初上手いじゃんとわたしのオールさばきを褒めてくれていたがそのうちに無言になった。

海風を体に受けて進む。後で三女に聞いたが我々は浜から見たらびっくりするくらい遠くまで漕いで行ったらしいのだ。三女は目視出来なくなったところで警察を呼ぶべきかとも考えたと言った。

我々はそのときはそれでもリーフに立つ乗れそうな高波まで行き着くことをしないで無事にビーチに戻ってきた。驚くほどの遠浅な珊瑚礁の浜。遥か彼方で波乗りをするボードと人影を背に浜へと戻ったのだった。

わたしはオール扱いにも慣れて自由にボードを進めることが出来るようになったがこれはサーフボードであってけして筏(いかだ)ではないはずである。そして何故わたしばかりが漕がねばならぬのか。

試しにわたしは友人に声を掛けてみた。

奥様、もうそろそろ浜に着きますがひと休みなさいますか。

友人が言った。

ええそうね、冷たいものを飲みたいわ。

いい加減代わってよ。わたしはオールを友人に渡そうと前屈みになった。途端にボードがぐらつき我々はドボンと水中に振り落とされた。動くときは言ってよ。友人は怒っている。そうか。急に動いたらダメなんだな。サップはな。

わたしはサップを降りたのちは長い時間をひとりでシュノーケリングし続けた。そしてこの浜の魚たちは麩が嫌いであった。一旦は麩を口にするもののなんだ麩かと吐き出すのである。唸る。

ライフジャケットを付けていないわたしを心配してか次女が時折近くに来た。次女は高校時代は水泳部。海で見る次女はいつ見ても仕事中の海女にしか見えないのだ。若き海女はいつでも真剣に海を見ていた。

友人はそのころひとり沖の波を目指してサップで進んでいたが目の前の波に乗ろうにも横風であらぬ方角へと運ばれてしまいそうになりボードを泳いで押しながら岸まで戻ってきた。

強い風でさ、危ない、このままだとアメリカへ流されちゃうって思ってさ。風ってのは目には見えないんだね、遠くからはわからなかったね。

唸る。

サップ後の我々はとりわけ半端ない筋肉痛に襲われた。

まあ次女の言っていたボブサップ説も当たらずとも遠からずであったのだ。