ギルバート・オサリバン「クレア」

ミニベロが来た。ミニベロと言うのは折りたたみ自転車のことだ。自転車に乗りたいととにかくつぶやいていたら何やら家族内自転車ブームとなった。そして先週ダホン社のリーズナブルなミニベロを三台購入したのだ。

主人の自転車は赤。主婦感、ママチャリ感が半端ないにもかかわらず主人が乗り回すとたちまちポップでスタイリッシュ。育ちの良さなのか。グリップとサドルは革。ステッチが入っている。清潔感溢れる1台だ。

三女のダホンはルートの青。アルミフレーム。ワイヤーが昆虫の触覚のように生き生きとカーブを描く。ミニベロ特有のレトロな雰囲気を一切排除していてスポーティ。折りたたむとファンタジーですらある。

私と長女、婿の共有車はフォレストグリーン。ミニベロの始祖モールトンを思わせるクロモリのクラシックな直線フレーム。ホームズ好きの婿はワトスンならツイードのジャケットでキャスケットかな、と嬉しそう。

私はここ数日家族には内緒でMTBの林道ライドの動画を観ている。スキー場のゲレンデをあっちこっち飛び出しながら走り降りるやつも大好きだ。

自転車自転車とつぶやいていたのだがショップでMTBの実物を見てひと目でロックオンしてしまった。

ゴツい。

前輪のシャフトにオイルを入れるみたいなキャップがあるよ。

ショップにはMTBの本や雑誌があり貪るように読んでいたところMTB少年(いや、青年)に乗るんですか?と尋ねられた。

いえいえ、でもこれ、どこで乗るの?山?イベント?ねえ、どこ行けばこれで遊べるの?

MTB青年はショップの店員だったのだが説明してくれた。ひとしきり話し込む。

漕がないんです。そしてサドルにも座らない。立ち上がったまま、こうして、とん、とん。地面のコブを越えて行きます。そうですね。重力です。こう、ゆっくり。

店員はそこにない自転車で空想の地面の窪みを器用に乗りこなす。

一週間後、三台のダホンの納車にショップへ行くと店員は私のことを覚えていてくれた。再び自転車林道走りの話が盛り上がる。

決して高くはありません。この前輪のサスペンションは4万から5万ないと作れないんです。安いMTBだとオイル漏れがして面倒臭いです。

ねえ私今日ダホン買ったんだよ(笑)

そうっすよね(笑)

三台のミニベロをなんとか車に詰め込むのを店員は手伝ってくれ、お別れと言う時、あの、よかったら今度一緒に山、行きませんか?お仕事のお休み何曜日ですか?自分、MTB二台持ってますから、貸しますよと言う。

私は主人と顔を見合わせる。うん、ありがとう、またね。

ミニベロが後ろのほうでゴツゴツ鳴っていた。

私は遠くの山を見た。