誠文堂新光社「ROSES〜オールドローズと現代バラの系譜」

スーパースターという赤いバラがある。赤いバラだ。赤にもいろいろあるからそこんところを書いてみるがスーパースターの赤はどちらかと言えば明るい赤、朱色に近い赤。若々しい赤。まるで初夏の赤。上手く言えないけど素敵な赤。それはスーパースターというバラの花の赤であり、けしてそれ以外の赤ではない。

 バラの花のつき方には2種類あるなんてはじめ知らないでいて、わたしはスーパースターを見てふうんバラはいいなと思ったから若干バラに騙された的な感じもある。

 その日バラ園で見たスーパースターは地面からすっと立つ凛々しいバラだった。一本にひとつの花。ヒューと長く伸びた先にポン。まるで花火だ。野球で言ったら高校球児の直球勝負。迷いなく潔く空を仰いで咲くその姿にわたしは一目惚れをした。

 バラが好きでさ、と人に話すとその頃はえ?っと顔を二度見されたものだ。○○さんて確か松が好きでこの間も黒松の盆栽いじってませんでした?

 そうだよ。松も好き、バラも好き。

スーパースターを2度目に見たのは5月の連休中のとあるバラ園だった。人混みをかき分けて花壇に張り付きわたしは懸命にバラの名前をこれでもかと辿り続けた。スーパースタースーパースター。

 あった。

 ヤッホー、元気?

 今思えばその日のスーパースターはその愛らしい赤い花を付けてはいたが周りのバラたちに比べ少々弱々しい印象だった。花色が明るい分だけ葉の色も薄かった。強い初夏の日差しに透けるように薄い緑で。そして翌年そのスーパースターは花を付けず、その翌年には木も名前の札も撤去されていた。

 バラには個性がある。どれだけ素晴らしいと言われ人々の人気を博していようとわたしはオースチンのバラをなんだか好きになれない。オースチンのバラの何かではない。雰囲気なのだ。

 しかし一方でわたしはバラだったら何でも好きなのだ。バラ園を歩きながらああオースチン、と思う時もある。なんとかしたいと思いながらもどうしてもジャイアンツファンをやめられないのとそこはよく似ている。古いドイツやフランスのバラに目が行く。よくわからない。誰か訳を教えてください。

 バラ園巡りにも限界がある。体力も金も要る。わたしはある日スーパースターを見たくて図書館のバラの本を何冊か借りた。何故だ。スーパースターというバラは何処にも載ってはいなかった。

 小学館のバラ図鑑にスーパースターは載っていた。ドイツ.1960.M.Tantauw、別名トロピカーナとある。続く文章にわたしは唸った。長いので省略するがこうあった。「時には朱色がまばゆく輝くことがある」もう一度読む。なぬ?輝く時があるとな。これ、小学館の本だよね、嘘はダメだよ嘘は。こうしてわたしは鈴木省三氏と出会ったのだった。(実際にお会いしたことはありません、文章を通してという意味です、すいません)

 鈴木さんは2000年に既にお亡くなりになっていた。

 スーパースターは交配種であり、そのお母さんはピースというバラであった。(お父さんでは?という説もあります)。

 冬が来てわたしは1日かけて庭に大きな穴を掘った。小さめの洗濯機なら入りそうな大穴だった。ふと見ると何やら穴の底が白い。わたしは粘土を掘り当てた。娘たちはその粘土で小さめの茶碗を幾つか作った。

 通常大苗を植えるに当たりこのような巨大な穴を掘る必要は全然無い。穴を掘るのが好きな人は要注意というそんな話だ。

 さて、穴を適正な大きさにし、肥料を施してわたしはつるピースの大苗を植えた。春が来て初夏となりピースは新生児の頭ほどの大きな花をいっぱいに咲かせた。もちろんスーパースターを植えたかったけれど本心を言えばわたしは植えたくはなかった。

スーパースターの苗を手に入れたとしてわたしはまだまだバラ初心者である。バラ園で見たあの悲しいスーパースターのように枯らしてしまう可能性は高い。こんな話は人にしたことは無い。女々しい奴だと思われたくは無い。庭の東西に自由にツルを伸ばして神々しいほどに咲き誇るピースの大輪を眺めわたしは鼻の穴を膨らませた。

 あなたの好きなバラは何?と聞かれたらわたしはおそらく半日かけてバラの家系図をコツコツ書くだろう。このバラのお母さんがこのバラで、このバラのお母さんはこのバラで。

 ではもしかしてこのバラとこのバラは従兄弟同士ではないですかな。

 そんな午後はどうかこんな合いの手を入れて欲しい。

 「オールドローズと現代バラの系譜」を見つけた時は嬉しかった。わたしは自作のバラ家系図とこの本とを照らし合わせたものだ。

 ってことで

 とげまるさんへ。

 バラには要注意ですぞ。

 持って行かれますぞ!