氷枕(終)

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カネコアヤノ'布と皮膚'


先生、氷枕、氷枕。あやさんが小声でそう言ったので私は聞き間違いかと思いベッドから出てあやさんのカーテンを覗いてみた。あやさんは待っていたかのように私の方に手を伸ばし氷枕を頂戴、と言った。え?あやさんの手が立ち尽くしている私の腕を取った。熱い手だった。あやさんナースコールですよ。私は言った。あやさんは首を横に振って押したけどこない、と泣きそうな顔でいった。ではナースステーションに行ってきます、と言うときあやさんはまた首を振った。あの人今夜もう危ないからナースたちは忙しい。あの人って?鰻の人?私は空のベッドを指さした。私は部屋を出てナースステーションを覗いてみた。あやさんの言うとおりナースたちは誰もおらずは部屋は空っぽである。私は再び病室に戻るとあやさんに氷枕の作り方を詳しく尋ねた。廊下の奥に大きな製氷機がある。そう言ってあやさんは自前の赤いゴム製の氷枕を私に手渡した。私は夢中であやさんの氷枕を作ると大急ぎで戻った。ありがとう…、あやさんはまだ何か言っている。え?毛布?あやさんは頷いた。私は自分の毛布を荷物から取り出してきて広げあやさんの身体に掛けた。しかしまだあやさんは何か言っていた。何?こんどは何?あやさんは私の手を取り私を引き寄せると小さな声で言った。…鰻の蒲焼き。あやさん外泊で鰻の蒲焼き食べてきたの?私がそう言うとあやさんはにっこりと笑った。