タマリンド水

畑を借りた。うちから数キロ南に丘を下る感じに進むと田園地帯が広がる。目の前を中央本線が走っている。電車好きの長女は近づいてくる電車の音を聴いただけで「特急だ」とか「こりゃ貨物だね」とかいう。

いつも電車を眺めるポイントに貸し農園の看板が立っていた。よく見ると看板の周りには2坪ほどの小さな区画の貸し農園がびっしりとあり、トマトやカボチャやオクラなどの夏野菜が西を向いたり東を向いたり所狭しとひしめいている。

看板にJAとあったので車で少し走って、駅前のJAのビルを訪ねた。応対してくれた男性職員さんはとても親切な人だったけどとにかく無駄に声が大きい。そして繰り返しが多過ぎる。きっと普段主にお年寄りを相手にしているのかもしれないね。

聞けばいまどきは貸し農園は人気が高く空き待ち状態だという。がっかりしていると少し遠くなりますが、と地図を広げ、この辺りならあるかもしれません、と指差した場所は私たちが看板を見た線路脇の土地だった。

私たちはその辺りの住民だと告げると男性職員さんはやおらスマホを取り出し電話をかけている。電話がつながった。男性職員さんは数十メートル離れた人に挨拶をするかのように電話の相手の名字を3回確かめた。声がでかい。どうやら相手はお年寄りのようだ。

「空いているそうですよ!」私たちは何度もお礼を言って頭を下げた。つられて大声になっていた。

賃貸料は年間一万円。ちょっと高いね、とか言いながら畑に到着。いつも電車を見るポイントよりも西へ少し走った場所だった。周りにはポツンポツンと家が建っている。長閑な田園風景。畑は広かった。60平米はある。ねえ広すぎない?いいじゃん〜。主人は乗り気だ。主人の笑顔につられて私もニコニコ。ビュウーン! 電車が通り過ぎていく。

数日後Kさんというおじさんと畑で待ち合わせ。契約書を貰う。草が繁っていた畑には重機が入っていた。水を採っていいという水路を見せてもらった。結構な激流で思わず顔をしかめた私を見ておじさんは豪快に笑った。雨、降ったでな〜!流されんようにな〜!

そのあと近所の喫茶店でおじさんと話す。どうやら作業中はこの喫茶店でお茶をしてトイレを借りたらいいよ、という段取りみたいだ。喫茶店のマスターとママもニコニコ。

私はマルチングと液肥についてあれこれと尋ねた。このところ毎日畑作業のシュミレーションが続いているのだ。

お話好きのおじさんは電車の運転手をしていたという。私の食いつきっぷりに気を良くしたおじさんの話は止まらない。この間ドクターイエローを見たよ!私もすっかりタメ口だ。新幹線の線路内にはスプリンクラーが設置されていて、夜中かけて点検をするらしい。気がつけば1時間も話し込んでいた。

帰り道私はテンションが落ちていく。ねえ、私頭おかしいってばれちゃったかな?主人は笑う。おじさん楽しそうだったからいいんじゃない?そうだね、うん。

剣先スコップ、レーキ、有機石灰。テーブルセットとパラソル。長ぐつもいるな。買い物リストを作成中だ。

上手く出来るかな?ちょっと自信がないけどとにかく何事も経験だ。

タマリンド水はベトナムの飲料でマメ科タマリンドから作る。坂田靖子の漫画で昔読んだのだがどうして今頃タマリンド水を思い出したのかな?

タマリンド作るの?わーお。

晴耕雨読ね。usaoもelleも笑っている。