2015-09-01から1ヶ月間の記事一覧

連載小説 小熊リーグ⑮

「先生大丈夫か?顔色が悪いようだな」マスターが言った。「気分が悪いんじゃねえか?このクマのせいだろう。こいつはちょっと生意気だからよ。サキちゃん早くクマを片付けろ」 「ねぇ、先生、教えて。この子いまなんて言ったの?」彼女はマスターを無視して…

Michael Schenker Group / Into the Arena

マイケル・シェンカー・グループを聴く。ギターと歌声。もう30年以上も昔の遠い日々の記憶の音だ。懐かしくて苦しい。虫喰い穴だらけの記憶の音が鳴る。 高校三年。夕方、駅前通りの楽器店。店舗奥にある小さな消音扉。そこが練習のために男の子たちが借りて…

ハンモックに寝てみました

日曜日。夕ご飯に主人がコロッケを作るというので買い物へ行ったがコロッケの材料を一式買い求めたのち栗を一袋買った彼の脳内は一瞬にして栗きんとんでいっぱいである。 男爵を茹でて潰し挽肉炒めと合わせて丸めている。おお、おおおお、上手いではないか。…

連載小説 小熊リーグ⑭

ハツリ。僕は白いクマの木の人形をもう一度手に取って眺めた。遠くからではわからなかったが長く見ていると突き出た耳や背中のこんもりした膨らみが巧みに彫られているのがわかる。クマは足のつま先を揃えていて何かを哀願しているようにも見えた。 「これは…

連載小説 小熊リーグ⑬

「変わった人形ですね」 「お店の10周年にマスターにプレゼントしたの。クマはいろいろ彫るけどハツリは1番むつかしいわ」彼女は満面の笑顔で鼻の穴を膨らませた。 「貴女が作ったんですか?へぇー。こういうの初めて見ました」 「ここいい?」彼女はそう言…

連載小説 小熊リーグ⑫

自宅マンションに戻って来た僕は窓を全部開けてルンバのスイッチを入れると、ベッドカバーやタオル類を洗濯機に放り込み、流しのマグと皿を洗った。野菜室のパン種を捨てる。ゴミ袋に冷蔵庫のものを全てぶち込んで中を空にすると汚れを丁寧に拭き取った。 溜…

診察日(2015年9月)

近所のリサイクルショップにホームベーカリーを買いに行ったところ木彫り熊を発見。掌サイズ、小ぶりの鮭をくわえていた。280円。安いのか高いのかわからない。たぶんきっと100円でも買わない人は買わないだろうから。 帰宅後体高等を計測。H8L13W7。そして…

おおつぼほまれ「ビスコッティ、ブラウニー、ニューヨークチーズケーキ」

シルバーウィーク。とうとう本職の方、左官業を営むM氏が雨漏り修繕工事に来て下さる。彼は長女のママ友のご主人である。屋根の裂け目に何か謎のペーストを塗る。屋根の素材によりペーストは違う。治りました。おお〜。ちなみにM氏の助手は将来は左官業に就…

山本周五郎「饒舌り過ぎる」

これまでずっと短編が好きだった。見よう見まね自分で書くのも、好んで読むのも短編だった。 30枚くらい。長くても50枚はいかない。今書いているのは毎日5枚くらいずつ書く。昨日で第一部が終了。昔ならここで終わっていたその感じがじわじわくる。なんだか…

連載小説 小熊リーグ⑪

朝食後すぐ診察に呼ばれ、白衣大王の尋問にいつも通り毒づいて部屋に帰ると外出のための荷物を作った。 荷物といってもトートバッグに財布やハンカチを入れるだけなのだが久しぶりのスニーカーなので靴下を履く。やっとの事で靴下を捜し当てる。腕に時計を着…

連載小説 小熊リーグ⑩

「僕の熊は、そう、青い熊でした」新海氏が唐突に言った。 青い熊?僕とウィルはほぼ同時に小さく声を上げた。 「青いんです」新海氏はベンチに腰掛けた姿勢で、地面に両脚を軽く踏ん張り、何か悔しそうに左右の膝を掌で掴んだ。長い指をした大きな掌だった…

連載小説 小熊リーグ⑨

数日後のことだった。朝食後、僕のケースワーカーだという男が部屋にやって来た。 「仕事が遅れてしまい申し訳ありません。突然の入院で何かと心配なこともお有りかと思います。何でも尋ねてください。出来る範囲でお手伝いします」 新海と名乗るその男は少…

スティーヴン・キング「ファイアスターター」

北海道旅行のお供に山本周五郎とスティーヴン・キングと迷って山本周五郎を選んだ反動でこの数日スティーヴン・キング「ファイアスターター」を読む。 その他に井伏鱒二「山椒魚」、三女の家から借りてきた「色彩検定3級」テキスト、またしても読書のループ…

「サンダーバード ARE GO」を観ました

北海道旅行から帰宅した夜、夕食に唐揚げを食べたらお腹を下して大変な目にあった。二週間ほぼライ麦パンとヨーグルトで過ごしていたので、多分胃腸がびっくりしたのだろう。 わたしと長女は月曜から金曜までは毎朝、家族全員分の弁当を作るが、わたしの旅行…

連載小説 小熊リーグ⑧

僕の病室には誰一人面会に訪れなかったが、特別差額病棟には衣類のクリーニングと掃除のサービスがあった。 朝食後、タオルと下着、パジャマを取りに来てくれる男性。薬を持って来てくれる男性の看護師。午後3時、男性がひとり15分ほどの室内清掃に来て帰り…

連載小説 小熊リーグ⑦

ベッドに横たわり呼吸する以外の仕事が何もない長い長い時間の静けさが僕をじわじわと変容させていった。 僕は投薬を素直に受け入れた。薬は一回分の服薬毎紙包みされている。 朝、看護師が薬を持ってくる。セロクエル100mg、デパケン200mg、エビリファイ6mg…

連載小説 小熊リーグ⑥

後でわかったことだが僕の入院した病院は僕の実家のクリニックと勤務先の精神病院からだいぶ離れた場所に建つ精神病院であった。その病院には特別差額病棟と呼ばれる軽症患者を対象とした完全個室スタイルの病棟があり僕はそこに居た。 僕の主治医は白川とい…

雄鶏社 CUEL「Cookie BAR」

仙台からは定員16人の二等寝台室に2人だった。明け方自分の寝言で目が覚める。叫び声だった。慌てて対角線上に部屋の端で寝ている同室の女性を見るが微動だにしていない。 朝食にプンパニッケルをとタッパを開くとところどころ白いカビが生えていた。札幌の…

連載小説 小熊リーグ⑤

ここに私がいることを人に語らないでくれと何度も約束をした それなのに、今その恩を忘れ、私を殺させようとしている おまえが溺れて死にかけたのを わたしが命を顧みず泳ぎついて助けたとき おまえはこの上なく喜んだことを覚えているのだろう。 目覚めた僕…

木彫り熊紀行⑨スピッツ「野生のポルカ」

昨日朝一で北大図書館の北方資料のコピー。日本の馬の在来種の資料など。学食で激辛麻婆丼小333円を食べ、歩いて北大ボタニカルガーデンへ。 もう北海道は秋が来ていて花はない。何処かで読んだことのある名前のかたちの奇妙な草を幾つか見る。 「この木はど…

開拓の村へ行きました

ブレーメンの音楽隊というドイツの物語がある。宿の居間の丁度今座っているところの壁にブレーメンの音楽隊的なブリキのウォールデコがあるのだが1番下は牛だった。牛の上には羊、そして豚、鴨、てっぺんはニワトリである。 唸る。 さすが酪農王国北海道。 …

谷口ジロー「神々の山嶺」

昨日午後造形作家のY氏に狸小路のアンティークショップを幾つか案内してもらう。大量の木彫り熊を次から次へと見るうちにそれがお土産品であろうと、量産された鮭喰い熊であろうと一匹一匹に生い立ちがあり、生産地や年代で括るべきではない、そんなことを考…

「テッド2」を観たよ

昨日豪雨と共に苫小牧市に上陸。3日間弱のフェリーの旅が終わった。 今日で札幌ステイ2日目。すこぶる居心地の良いドミトリーの居間でこれを書いている。 わたしの乗った太平洋フェリー「きそ」二等は16人部屋だったが581号室の乗客は5人だった。 夜が来て船…