2015-01-01から1年間の記事一覧

連載小説 小熊リーグ㉑

小路先生に小川先生に手紙を書きたいと言ったら書いてもいいよと言ったので書きます。先生が入院したと聞いてすごく驚きました。あの日診察室で先生がとつぜん怒鳴った時も本当にびっくりしました。小路先生によれば小川先生はたぶんそのことを思い出すこと…

連載小説 小熊リーグ⑳

2度目の入院は4人部屋で主治医は変わらなかったがケースワーカーは新海氏ではなく太田という中年の女性だった。新海氏は前と変わらず病院にケースワーカーとして勤務していたが長期休暇を取っていた。 僕のベッドはドアを入った突き当たりにあった。その4…

診察日(2015年10月)〜spitz「死にもの狂いのカゲロウの見ていた」

わたしがこの曲を初めて聴いたのはスピッツがまだインディーズレーベル”ミストラルズ”時代のアルバム「ヒバリのこころ」だった。 mistralはフランス語。ミストラルは通常冬から春にかけてフランス南東部に吹く。アルプス山脈から地中海に吹き降ろす冷たく乾…

Ruby Tuesday 〜The Rolling Stones 1967

出来事の記録。 昨日三女と散歩。ドブに赤いアメリカザリガニを見つけた。写真に撮ろうとiphoneを向けると鋏を振りかざして猛烈に威嚇してくる。わたしはゴキブリも蛇も怖くないがこの時はこれはひるんだ。わたしの中のベアーが今すぐアメリカザリガニを手掴…

旭屋出版「コーヒー&エスプレッソの教科書〜抽出・マシーン・焙煎の技術と科学」

サンダーバードに夢中の長女がサントラ盤のCDをリビングで流す。オーケストラの演奏するサンダーバードのテーマ。ここ最近の朝の家事のテーマ曲だ。 そう言えば昨日BOOKOFFでハノン500円だった。ハノンというのはピアノの教科書だ。食後のテーブルを片付けな…

連載小説 小熊リーグ⑲

「小熊を連れてる母熊は凶暴らしいな」マスターが言った。「うん、お母さん熊は小熊を護ろうとして必死だから」咲子さんが言った。 その時だった。突然ドアがバタンと締まる大きな音がした。くるりと店の入り口の方を振り返るとそこにあるはずのカフェの扉は…

足場解体作業を手伝いました

万葉集には秋の七草の名称だけを並べたという珍しい一首があるという。江戸時代には貧しい庶民までもが草木を愛でた。遺伝学など知りようもない園芸職人たちが朝顔の品種改良をした。 涼しくなったので散歩。道路の脇、公園。草の名前を思い出したくてちくま…

多重人格NOTE その10 治療同盟

精神科医はイケメンの方が良いか、そんな事を先日主治医と語り合った。精神科医は男性、患者は女性という設定だ。 もしも主治医がイケメンだと毎回の診察が心無しか楽しみになるから通院服薬等のコンプライアンスの向上がある、とわたし。まあ別にいいんじゃ…

連載小説 小熊リーグ⑱

「熊は悪い奴かもしれないけれど、それは家畜や人を襲うからだけじゃないの」カウンター席の僕の隣で咲子さんはそう言ってマスター特製今月のデザート、青カビチーズケーキをパクりと食べた。 「美味しいだろう、おい」マスターは彼女を顔を覗き込む。「美味…

「ウォルトディズニーの約束」を観ました

頭の調子が良くない。極彩色のはらはらドキドキの夢を幾つも見て夜中に目覚める。朝お弁当を作りながら頭の中の声に気を取られ気が付くと涙をぽろぽろと流していた。 最近よく蒸しパンを作る。テフロンのちょっと大きめのプリン型を6つ。ココナツ、黒糖、レ…

連載小説 小熊リーグ⑰

夢を見た。 僕と父は母の納骨を済ませ、墓地の駐車場で車に乗り込んだ。車を出そうとして後部座席に見知らぬ女性が座っていることに気付く。彼女が僕の名前を呼んだ。僕は快活に返事を返し会話が弾む。父も嬉しそうに会話に加わった。それが今さっきお別れし…

連載小説 小熊リーグ⑯

興奮していた。震えが止まらない。その時突然後頭部に刺さるような頭痛を感じてあっと言って目を閉じた。小さい火花が散るような、ピンと張られた薄い何かが裂けるような痛みだった。ザワザワいう音が近づいたり遠のいたりした。頭痛はまた来た。そしてまた…

シュタイフミュージアム監修「限定テディベアの世界」

昨日は自転車で図書館へ。市役所にも行かなくちゃならなかった。山道をひたすら下る。1時間も国道を走れば市役所と図書館のビルが見えて来る。 市役所のカウンターのお姉さんは先日と違うお姉さんのようだった。ちょっと安心。これもカウンター恐怖症と言え…

連載小説 小熊リーグ⑮

「先生大丈夫か?顔色が悪いようだな」マスターが言った。「気分が悪いんじゃねえか?このクマのせいだろう。こいつはちょっと生意気だからよ。サキちゃん早くクマを片付けろ」 「ねぇ、先生、教えて。この子いまなんて言ったの?」彼女はマスターを無視して…

Michael Schenker Group / Into the Arena

マイケル・シェンカー・グループを聴く。ギターと歌声。もう30年以上も昔の遠い日々の記憶の音だ。懐かしくて苦しい。虫喰い穴だらけの記憶の音が鳴る。 高校三年。夕方、駅前通りの楽器店。店舗奥にある小さな消音扉。そこが練習のために男の子たちが借りて…

ハンモックに寝てみました

日曜日。夕ご飯に主人がコロッケを作るというので買い物へ行ったがコロッケの材料を一式買い求めたのち栗を一袋買った彼の脳内は一瞬にして栗きんとんでいっぱいである。 男爵を茹でて潰し挽肉炒めと合わせて丸めている。おお、おおおお、上手いではないか。…

連載小説 小熊リーグ⑭

ハツリ。僕は白いクマの木の人形をもう一度手に取って眺めた。遠くからではわからなかったが長く見ていると突き出た耳や背中のこんもりした膨らみが巧みに彫られているのがわかる。クマは足のつま先を揃えていて何かを哀願しているようにも見えた。 「これは…

連載小説 小熊リーグ⑬

「変わった人形ですね」 「お店の10周年にマスターにプレゼントしたの。クマはいろいろ彫るけどハツリは1番むつかしいわ」彼女は満面の笑顔で鼻の穴を膨らませた。 「貴女が作ったんですか?へぇー。こういうの初めて見ました」 「ここいい?」彼女はそう言…

連載小説 小熊リーグ⑫

自宅マンションに戻って来た僕は窓を全部開けてルンバのスイッチを入れると、ベッドカバーやタオル類を洗濯機に放り込み、流しのマグと皿を洗った。野菜室のパン種を捨てる。ゴミ袋に冷蔵庫のものを全てぶち込んで中を空にすると汚れを丁寧に拭き取った。 溜…

診察日(2015年9月)

近所のリサイクルショップにホームベーカリーを買いに行ったところ木彫り熊を発見。掌サイズ、小ぶりの鮭をくわえていた。280円。安いのか高いのかわからない。たぶんきっと100円でも買わない人は買わないだろうから。 帰宅後体高等を計測。H8L13W7。そして…

おおつぼほまれ「ビスコッティ、ブラウニー、ニューヨークチーズケーキ」

シルバーウィーク。とうとう本職の方、左官業を営むM氏が雨漏り修繕工事に来て下さる。彼は長女のママ友のご主人である。屋根の裂け目に何か謎のペーストを塗る。屋根の素材によりペーストは違う。治りました。おお〜。ちなみにM氏の助手は将来は左官業に就…

山本周五郎「饒舌り過ぎる」

これまでずっと短編が好きだった。見よう見まね自分で書くのも、好んで読むのも短編だった。 30枚くらい。長くても50枚はいかない。今書いているのは毎日5枚くらいずつ書く。昨日で第一部が終了。昔ならここで終わっていたその感じがじわじわくる。なんだか…

連載小説 小熊リーグ⑪

朝食後すぐ診察に呼ばれ、白衣大王の尋問にいつも通り毒づいて部屋に帰ると外出のための荷物を作った。 荷物といってもトートバッグに財布やハンカチを入れるだけなのだが久しぶりのスニーカーなので靴下を履く。やっとの事で靴下を捜し当てる。腕に時計を着…

連載小説 小熊リーグ⑩

「僕の熊は、そう、青い熊でした」新海氏が唐突に言った。 青い熊?僕とウィルはほぼ同時に小さく声を上げた。 「青いんです」新海氏はベンチに腰掛けた姿勢で、地面に両脚を軽く踏ん張り、何か悔しそうに左右の膝を掌で掴んだ。長い指をした大きな掌だった…

連載小説 小熊リーグ⑨

数日後のことだった。朝食後、僕のケースワーカーだという男が部屋にやって来た。 「仕事が遅れてしまい申し訳ありません。突然の入院で何かと心配なこともお有りかと思います。何でも尋ねてください。出来る範囲でお手伝いします」 新海と名乗るその男は少…

スティーヴン・キング「ファイアスターター」

北海道旅行のお供に山本周五郎とスティーヴン・キングと迷って山本周五郎を選んだ反動でこの数日スティーヴン・キング「ファイアスターター」を読む。 その他に井伏鱒二「山椒魚」、三女の家から借りてきた「色彩検定3級」テキスト、またしても読書のループ…

「サンダーバード ARE GO」を観ました

北海道旅行から帰宅した夜、夕食に唐揚げを食べたらお腹を下して大変な目にあった。二週間ほぼライ麦パンとヨーグルトで過ごしていたので、多分胃腸がびっくりしたのだろう。 わたしと長女は月曜から金曜までは毎朝、家族全員分の弁当を作るが、わたしの旅行…

連載小説 小熊リーグ⑧

僕の病室には誰一人面会に訪れなかったが、特別差額病棟には衣類のクリーニングと掃除のサービスがあった。 朝食後、タオルと下着、パジャマを取りに来てくれる男性。薬を持って来てくれる男性の看護師。午後3時、男性がひとり15分ほどの室内清掃に来て帰り…

連載小説 小熊リーグ⑦

ベッドに横たわり呼吸する以外の仕事が何もない長い長い時間の静けさが僕をじわじわと変容させていった。 僕は投薬を素直に受け入れた。薬は一回分の服薬毎紙包みされている。 朝、看護師が薬を持ってくる。セロクエル100mg、デパケン200mg、エビリファイ6mg…

連載小説 小熊リーグ⑥

後でわかったことだが僕の入院した病院は僕の実家のクリニックと勤務先の精神病院からだいぶ離れた場所に建つ精神病院であった。その病院には特別差額病棟と呼ばれる軽症患者を対象とした完全個室スタイルの病棟があり僕はそこに居た。 僕の主治医は白川とい…